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ドイツのロシア接近は、吉か凶か

Vol.68 メルセデス・ベンツ Cクラスのすべて (モーターファン別冊 ニューモデル速報 インポートシリーズ)

 メルケル首相にとっては、クリミア侵攻などどうでも良かったのでしょう。

 「ロシア・モスクワ郊外で3日、ドイツの自動車メーカー、メルセデス・ベンツMercedes-Benz)の工場の落成式が行われ、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領とペーター・アルトマイヤー(Peter Altmaier)独経済・エネルギー相が出席して両国の経済協力をたたえた

 プーチン氏は、モスクワ郊外の工業団地に完成した新工場で「ロシアは今後、こうしたプロジェクトを確実に支援する」と表明。「メルセデスの車は必ずロシアの消費者の間で人気になる」と述べ、既に自身でも1台所有していることを明らかにした。

 一方のアルトマイヤー経済相は「言うまでもなく、ロシアとドイツは両国の間に横たわる政治的な問題を解決する必要があり、争いは終わらせなければならない。だが、同時に経済関係を発展させていくべきだ」と語った。

 メルセデス・ベンツを傘下に収める独自動車大手ダイムラー(Daimler)は2017年、モスクワから北西に約50キロ離れた工業団地で新工場の建設を開始した。総額2億5000万ユーロ(約313億円)を投じた新工場では年間2万5000台を生産する計画で、約1000人の雇用を見込んでいる。

 ロシア経済は、ウクライナ危機をめぐる国際社会からの制裁と世界的な原油価格の下落により痛手を被っている。米自動車大手フォード・モーター(Ford Motor)は先週、売り上げ不振を理由にロシア国内の組立工場2か所を閉鎖し、乗用車の生産を中止すると発表した。ただ、メルセデス・ベンツなど高級ブランドは今のところロシア経済危機の影響を受けていない。」

モスクワ郊外にメルセデス・ベンツの新工場、プーチン氏称賛 写真9枚 国際ニュース:AFPBB News

 フォードが撤退したのは、フォードの車が市場で淘汰されたためとも考えられますが、そこにドイツのベンツが入るというのは、いかにも場違いな感じがします。あれだけ、クリミア侵攻でロシアへの対決を深めていたのに、「そろそろ時効」ということなのでしょうか。

 問題は、ノルド・ストリームと言われるロシアとドイツを直結する石油パイプラインです。

トランプ米大統領にとって、この新パイプライン「ノルド・ストリーム2」は、ドイツのロシア産エネルギー依存を増大させる「とんでもない」代物である。またロシアの支援を受ける分離独立主義勢力と戦っているウクライナは、この新パイプラインが完成すれば、ロシア政府が高収益で戦略的重要性の高いガス輸送事業からウクライナを締め出すことが可能になるのではないかと懸念している。

メルケル氏にとってはいかにもタイミングが悪い。欧州と米国の同盟関係が揺らぎ、ロシアと中国が自己主張を強めるなかで、メルケル氏は、ドイツが欧州の政治的リーダーとしての役割をもっと担わなければならないと認めてきた。

先月メルケル氏は「グローバル秩序は圧力にさらされている」と語った。「私たちにとって、これは挑戦だ。ドイツの責任は増大している。ドイツはもっと汗を流さなければならない」

メルケル氏は4月、それまでは商業的な事業であると位置付けていた「ノルド・ストリーム2」について、政治的な配慮があることを初めて認めた。

大半の欧州諸国はドイツに対し、欧州としての影響力をもっと行使し、ロシアによる侵食に神経を尖らせる東欧諸国の保護に向けて努力することを望んでいる。

だが、ロシアがドイツに対し天然ガスを輸出する一方でウクライナを迂回できるようにしてしまえば、正反対の結果になってしまう。ウクライナ政府はガス輸送に伴う歳入を奪われ、ウクライナポーランドバルト海沿岸諸国ではガス供給途絶に対する脆弱性が高まる

「代償として、バルト海沿岸諸国、ポーランドウクライナからの信頼喪失という、さらに大きな損失を被ることになる」と指摘するのは、ドイツ連邦議会外務委員会におけるメルケル氏の盟友であるロドリッヒ・キーズベッター氏。

「我々ドイツ人はいつも、西側の結束を固めることが我々の『重心』であると口にしているが、少なくともエネルギー政策に関しては、ドイツをこうした西側の団結から引きずり出すという点で、ロシアによるアプローチは成功している

多くのアナリストは、「ノルド・ストリーム2」のビジネス上の根拠は薄弱だという。すでにバルト海海底を経由する別のパイプラインがロシア・ドイツ間を結んでいる。「ノルド・ストリーム2」によって輸送量は倍になるが、将来の需要は未知数である。

その一方で、ドイツ産業界は、エネルギーがこれまでより低コストで供給されるのであれば、何であれ歓迎している。

連立与党としてメルケル氏と提携する社会民主党は、ドイツ国内においてロシアに対する融和的なアプローチを求める代表的な勢力であり、やはり新パイプラインに好意的である。

この問題はドイツ中央政界に亀裂を生じさせている。与党各党は今年初めに行われた連立協議において新パイプラインを支持することで合意しているが、文書化はされていない。

「ノルド・ストリーム2」に批判的なシンクタンク欧州政策分析センターのアナリスト、マルガリータ・アセノバ氏によれば、新たなルートを建設しなくても、既存のウクライナ経由のパイプラインを使えば、ロシアは欧州向け天然ガス輸出を倍増させることができるという。

だが、欧州諸国、米国政府、さらにはメルケル氏自身の党内からも反対があるにもかかわらず、「ノルド・ストリーム2」事業は続いている。外交におけるドイツの野心が、同プロジェクトの露骨なビジネス上のロジックによって邪魔されている格好だ。」

アングル:エネルギーのロシア依存、深まるドイツのジレンマ | ロイター

 つまり、ドイツはウクライナを初め、バルト海沿岸諸国、ポーランドからの信頼喪失と言う事態を招いても、ロシアとの結びつきを重視するという姿勢を打ち出したわけです。これは、トランプ大統領による軍事予算増額と言う要求に対する答の一つでもあります。もう一つの答が、欧州軍の創設です。しかし、こうした事態をアメリカが許すはずもありません。

マイク・ペンス(Mike Pence)米副大統領は3日、首都ワシントンで開催された北大西洋条約機構NATO)創設70周年記念のフォーラムで、ドイツの少なすぎる軍事負担とガスパイプライン計画でのロシアとの協力関係を「断じて容認できない」と強く批判した

 これに先立ちドナルド・トランプDonald Trump米大統領も、NATO加盟国が2014年に各国の防衛費支出を対国内総生産GDP)比2%とすることで合意したにもかかわらず、ドイツは達成できそうにないと繰り返し不満を表明してきた。

 ペンス氏はドイツ軍に関する議会報告書に言及し、ドイツには軍事的即応性が「明らかに欠けている」と強調した。

 ドイツはロシアをめぐる政治的懸案にもかかわらず、同国とのガスパイプライン計画「ノルド・ストリーム2(Nord Stream II)」を進めてきた。実現すれば、ロシアからドイツへのガス供給量は現行の2倍に増える。

 ペンス氏は「ドイツがノルド・ストリーム2パイプラインの建設を続けるならば、トランプ大統領が言うように、ドイツ経済は文字通りロシアの支配下に置かれる恐れがある」と語った。

 原子力に反対の立場を取るドイツは、代わりとなるエネルギーを強く求めているが、バルト諸国やポーランドは歴史に基づくロシアへの警戒感から、ノルド・ストリーム2に反対している。」

ペンス米副大統領、NATO行事でドイツ批判「断じて容認できない」 写真2枚 国際ニュース:AFPBB News

 結局、トランプに愚痴を言われるのがいやで、ロシアに接近しましたということが明らかです。その際にはポーランドバルト三国、それにウクライナなどどうなっても良いという姿勢が透けて見えます。

 伝統的に、ドイツは、ロシアと組んでいる時が最強なのです。ヴィルヘルム2世がどこで失敗したかと言えば、ロシアとの再保証条約を更新しなかったためでした。第一次大戦後、いち早くドイツが国際社会に復帰できたのは、ロシアとの軍事密約であるラッパロ協定が存在したためです。

 また、第二次大戦でも、独ソ戦がはじまってからドイツの敗北は明白になりました。ドイツとロシアが手を結ぶ限り、ヨーロッパではどの国も対抗出来ないという歴史法則を、今回もドイツは使用するというわけです。

 しかし、これはアメリカからの反発を生みます。アメリカとの関係悪化がそのまま経済不調につながります。中国が良い例でしょう。これでドイツは地獄に落とされるのかも知れません。