FirstHedge 明日の投資情報

投資を搦め手で分析します。

Brexitに挫折するジョンソン首相

Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2019年8/6号[ハードブレグジット 衝撃に備えよ]

 これでは少し無理という気がしてきました。

 「 英下院では3日、欧州連合(EU)離脱延期の申請をジョンソン首相に強制する法案の審議入りに向け、議会の議事運営を掌握するための動議が賛成多数で可決された。採決で敗れたことを受けて、首相は政府が解散総選挙実施の動議を提案することも辞さないと表明した。
 法案審議入りに向けた超党派の動議は賛成328、反対301で可決され、同法案は下院で4日に審議される。ジョンソン首相率いる保守党政権は3日、保守党議員1人が野党の自由民主党にくら替えしたため下院の過半数議席を失っており、超党派の動議可決はさらなる打撃となった。ジョンソン首相は造反した議員を除名すると警告していたが、21人が超党派動議に賛成票を投じた
 ジョンソン首相は、必要であればEUとの合意のないまま現行期限通り10月31日の離脱も辞さないとしている。これに対し、合意なき離脱は経済的な大惨事をもたらしかねないとして取りまとめられた同法案は、離脱期限を来年1月31日まで延期するよう首相に強制する内容。
 ジョンソン首相は「議会は、われわれが取り結べるかもしれない合意をつぶそうとしている」とした上で、「私は総選挙を望んでおらず、国民も同じだ」と言明。ただ、下院が離脱延期の申請を強制する法案を可決するなら、この問題を解決するために誰が10月17日から開かれるEU首脳会議出席のためブリュッセルに向かうかを「英国民は選ばざるを得なくなるだろう」と語った。
 ジョンソン首相が総選挙実施の動議を提出した場合、その可決には下院計650議席中の3分の2以上に当たる少なくとも434議員の賛成が必要。野党労働党のコービン党首は首相に対し、離脱延期法案の成立を容認するなら総選挙実施は可能だと述べた。総選挙で過半数議席を確保すれば、同法を廃案にできるため、首相は恐らくこの提案を受け入れると考えられる。しかし、支持が得られずに首相にとって裏目に出る可能性もあり、事態は今後の議会の動向に左右される。
 離脱延期法案の審議入りが可決された後、外国為替市場で英ポンドは3日に付けた約3年ぶり安値から反発。日本時間4日午後0時36分現在、0.3%高の1ポンド=1.2112ドルで推移している。
 保守党院内幹事は3日の採決後、ハモンド財務相を含む造反議員21人に対し、除名を言い渡した。ジョンソン首相はこの日だけで合わせて22人の議席を失い、計289議席の保守党勢力で政権を率いることとなった。このため、総選挙実施の動議が週内に採決・可決されないとしても、遠くない将来の実施は避けられそうにない。」

英下院、EU離脱延期法案の審議入り可決-首相は総選挙辞さず - Bloomberg

 伝統ある英国の保守党も、Brexitという難題のためにほぼ満身創痍です。ジョンソン首相も、本音のところでは「合意なき離脱」を狙っているはずです。やめてしまえば、あとはEUが譲歩するしかほかに手立てがないからです。そして、「合意なき離脱」を前提にした交渉で、初めて英国はEUに対して強硬な姿勢を維持することができるのです。にもかかわらず、「合意なき離脱」の英国にとってのメリットが理解されていないのは残念なことです。

 農作物を英国は輸入しているのですから、対岸のフランスやオランダは、合意なき離脱は農産物に対する関税が課されるので困るはずです。ですから、いつまでも英国に対して強硬な姿勢はとることができないのです。

 アイルランド問題に関しても同様です。アイルランド北アイルランドの国境を開けたままで、英国がEUから離脱すれば、英国にとってよりアイルランドにとって困る事態が生じるはずです。EU圏とはいくらでも関税逃れの密輸が公然と行えるためです。

 英国にとって、アイルランド問題を口実にした関税同盟への残留は、何としても避けたいはずです。この関税同盟が存続する限り、英国は独自に諸外国とFTAを締結することができません。特に、アメリカとのFTAにより英国経済の浮揚をもくろむジョンソン首相にとって、この関税同盟の存続は何としても避けなければならない事態といえます。

 正直言ってここまで話がこじれるとは思いませんでした。しかし、逆に言えば、EUは英国を関税同盟の枠組みにとどめておきたい、そしてEUの負担金も従来通り払ってもらいたいのでしょう。今回のEU離脱は、英国にとってまさに国家の命運をかけた決断となりそうです。

 最後に今後の展開ですが、ジョンソン政権は、今回の21名の造反者のために、少数与党の立場に追い込まれています。そのための総選挙ですが、総選挙には下院議員の三分の二が必要です。EU離脱が先延ばしされ、総選挙もできないことになれば、英国のEU離脱は本格的に失敗することになりそうです。