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キッシンジャーは何を語ったのか

キッシンジャー回想録 中国(上)

 こうした微妙な話題は表に出にくいのであくまで推測ですが。

 「中国の習近平国家主席は8日、北京でキッシンジャー米元国務長官と会談した。米中間の緊張について「双方の譲り合いの精神によって友好的な話し合いで解決したい」と述べた。米国内での反中感情の高まりにも言及したうえで、「中国の正当な権益は尊重すべきだ」とけん制した。国営新華社通信が伝えた。

 習氏は「国際社会は中米関係が正しい方向へ発展することを期待している」として米国に共存を呼びかけた。月末にアルゼンチンで開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせた首脳会談での意見交換にも意欲を示したキッシンジャー氏は「米中は相互理解をさらに深め、よく意思疎通して対立点を適切に管理すべきだ」と述べた。

 習氏が米中間選挙に言及したかどうかは、新華社電では不明だ。

 同席した中国の王毅外相は会談に先立って開かれた豪外相との共同記者会見で「米中の協力の必要性は、党派の違いや国内情勢の変化を越えるものだ」と強調。中間選挙への直接的な評価については「他国の内政には干渉しない」と回答を避けた。」

習主席「米中は譲り合いを」 キッシンジャー氏に :日本経済新聞

 さすがに日経だけあって中国側の言い分しか伝えていません。産経新聞では外相との対談が取り上げられています。

「 中国の王毅国務委員兼外相は8日、北京を訪問中のキッシンジャー元米国務長官と会談し、通商問題などで対立する米中関係について意見交換した。
 中国外務省によると、王氏は「中米両国は間もなく国交樹立40周年を迎える。この40年は両国の共通利益が意見の相違よりもはるかに大きいことを証明している」と指摘。キッシンジャー氏は「米中双方はもっと広い視点で両国関係をとらえる必要がある」と語った
 今年95歳のキッシンジャー氏は1979年の米中国交樹立に尽力し、歴代の米政権に対中政策について助言してきたことで知られる。両氏は9月にも米ニューヨークで会談している。」

王毅国務委員、キッシンジャー氏と会談 - 産経ニュース

 ここにあるように、キッシンジャーの表向きの発言はは終始楽観的なトーンに終始しています。実際、ブルームバーグの報道もそれを裏打ちしています。

「 キッシンジャー氏はシンガポールで開かれているブルームバーグ主催の「ニューエコノミー・フォーラム」で、米中の貿易交渉担当者は細かい点にこだわり過ぎることを避け、まず達成しようとしている目的は何か、またできる譲歩とできない譲歩はそれぞれどういったものかを互いに説明すべきだと述べた。
 40年余り前のニクソン政権下で大統領補佐官として中国との国交正常化に尽力し、その後も歴代の米大統領に助言を提供してきたキッシンジャー氏は「ある程度の意見の不一致は避けられないが、世界秩序に対する希望が両国の根本的な対立によって損なわれることを両国が認識するという目標が必要だ」と指摘。「そうした目標は達成可能だと考えており、実際に達成されるとかなり楽観視している」と語った。」

キッシンジャー氏:米中両国は対立激化を回避できると「楽観視」 - Bloomberg

 こう見ると、キッシンジャーはどちらかといえば中国寄りのスタンスで米中の調整を図っているようにも見えます。

 しかし、トランプ大統領が大統領選の前にキッシンジャーに面談していること、そしてスティーブ・バノンに対中対抗策を伝授していたことを思い起こすならば、むしろ、真相は逆で中国側にアメリカ側の厳しい要求を伝えに行ったと考えるべきでしょう。

 スティーブ・バノンとの関係は以前取り上げています。

「進歩が見られないために、バノンは、中国に対しもっと積極的に対抗する点で、アメリカ人に注意を喚起し、政治的に圧力をかける政府外の組織が必要だと確信するようになりました。バノンの決心を固めさせたのは、コネチカット州にある自宅での、キッシンジャーとの会談でした。バノンによれば、ニクソン大統領の国務長官は、1970年代初頭の時期を例に挙げました。当時アメリカの指導者達はベトナム戦争を終了させることに腐心していました。その一方で、政権外部の外交問題タカ派は、ソビエトに対する冷戦で敗北しつつあることを懸念していました。こうした懸念のために、1976年には、ポール・ニッツエとディーン・アチソンの外交方針を推進するために1950年に創設された冷戦期のロビー組織「現在の危機に関する委員会(the Committee on the Present Danger)」を復活させたのです。その目的は、ソビエトの脅威に対抗するアメリカの決意を強化し、デタント(緊張緩和)とSALT II 武器制限交渉に反対するロビー活動を行うことでした。「彼らは、内部からはそれを行うことができないことを良く理解していた」とバノンは語っています。「一旦政権からでなければならない。そして、闇夜の火球のように、アメリカ人の目を覚まさせなければならないんだ」ホワイトハウスを去って以来、バノンは、42年間にわたって国防総省のネット・アセスメント局の局長を務めていたアンドリュー・マーシャルとも会合を重ねています。アンドリュー・マーシャルも、現職中に、アメリカと中国との対立を予想していました。
 表面上、キッシンジャーが物騒なイデオローグであるバノンのような人物に助言を与えようとする関心は、並々ならぬものがあるように見えます。94才のこの老人は、1971年に米中国交回復のために初めて中国の地を踏んで以来、80回以上中国を訪れています。彼は国際コンサルタント会社を立ち上げ、長年にわたり中国にとって米国の歴代大統領とのお気に入りの橋渡しでありつづけました。外交問題評議会(CFR)のアジア研究デスクのエリザベス・エコノミーは、「実に奇妙です」と述べています。「キッシンジャーは、G2論の最も著名な支持者の一人であったためです。G2論とは、アメリカにとって最も重要な関係は中国との関係であるという考え方です」しかし、彼女は「ホワイトハウスにいまだに影響力を持っている人物に会うことにキッシンジャーは何の抵抗も見せていないのです」と付け加えています。この件に関して、キッシンジャーはこの件に関してコメントを拒否しています。」 

バノンが米中対立を生み出す - FirstHedge 明日の投資情報

 中国側から、キッシンジャー発言の中身が発表されないのは、それだけ強硬な要求がなされていると判断するべきでしょう。ですから、米中貿易戦争はまだまだ続き、最終的には軍事的な紛争にまで至る可能性が高いといえます。