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北方領土の呪いか 毒殺未遂で英国・ロシアの対決は決定的

Gchq

 プーチンは呪われているとしか思えません。その呪いに敢えて名前をつけるならば、「北方領土の呪い」とでもいえるのではないでしょうか。訪日した2016年末にはロシアにシンパシーを持つトランプが当選した直後で、プーチン大統領も、日本の助力をうけなくとも、国際的孤立から逃れられると判断したのでしょう。来日の際に、国内の保守派をいなしてすんなり返還していれば、こんな事態は防げたはずです。しかし、事態はそれから一層暗転しました。とどめは、今回の暗殺未遂です。ついに物的証拠が出てしまいました。

  「セルゲイ・スクリパリ毒殺未遂に関してロシアに対する英国への国際的な支援は揺るぎがないと、昨夜、とある外国の外交官が語った。
 150名以上のロシア外交官が、ヨーロッパの28カ国から国外退去処分を受けた。これは前例のない団結である。
 昨夜多くの外交官が明かしたのは、テリーザ・メイ首相の力強い議論に説得されたと言うことであった。英国によるロシアの活動のインテリジェンス、それにクリミア併合やマレーシアMH17機の撃墜といった「ロシアの流儀」が引き合いに出されたのだ。
 英国は自らの手持ちの物証を提示したが、3月23日の欧州委員会での首脳会談で全体のインテリジェンスが提示される1週間前から、多くの国々に支持されていた。
 ポーランド副公使のバルトス・チコシックは、3月4日の暗殺未遂以降、ワルシャワで英国官吏からどのように説明を受けたかを語った。
 「我々はこの件の証拠を提示され、団結を示すのに参加する準備があるかと尋ねられた」「我々(ポーランド)はすぐに対応した。この場合、英国の情報の詳細さは決定的なものではなかった。というのも、われわれはロシアのふるまいのパターンを観察しており、ソールズベリーでの事件はこのパターンに合致したためだ。」
 「我々は初期の段階で英国にすべてを開示するように要求しなかった。英国がこの件をハーグの化学兵器禁止機構(OPCW)に訴えたことは明らかだった。だから、国際的な調査が行われることが我々には分かっていた」
 「OPCWの調査に必要な数か月の間、政治的な決定を延長する必要はなかった。」
 ポーランド公使はさらに付け加えた。「これはロシアと英国の二国間の問題ではなく、ヨーロッパ市民の安全に関する問題であることを我々は理解していた。」
 「今回英国を支持したどの国家も、過去において、ロシアから、何らかの手段で、ターゲットにされてきた。圧倒的多数の感情は『もう十分だ』というものだった。」

ソールズベリーはきっかけだった

 火曜日に、英国政府の国防省技術実験室のゲイリー・アトキンヘッドは、今回用いられた薬物が、ロシアからもたらされた軍用水準のノビチョクであることを証明できなかったと発表した。
 ロシアは、この事実に飛びついた。
 しかし、チコシック副公使は、次のように述べた。「ロシアの反応は、この種の行動の典型だった。まず否定して、徽章を付けない制服の軍を派遣し、ハッカーを用いてインターネットを操作する。我々はロシアに、善意と透明性を示すための時間を十分に与えた。しかし、ロシアはそうしようとはしなかった
 「こうした場合、すべてを否定するという手段もありだろう。しかし、このように我々がだまされれば、我々の国民の声明を危険にさらすことになる。誰の責任かすでにわれわれは知っているのだから、官僚的な手続きの時間は終わり、行動をとるべき時がやってきた。この場合、ロシアに責任があることに我々は疑いを持っていない。」
 外交官の大量国外退去は重要だと彼は述べた。
 「ポーランドは4名の外交官を追放した。しかし、多くの国々での総計150名もの外交官の国外退去は前例がない
 ロシアがこの団結に水を差そうとしていることを我々は察知してきた。だから、われわれは常に団結を維持しなければならない。」
 「この見解は、3名のロシア外交官を追放したチェコ共和国、『高度な作戦』に従事する1名の外交官を追放したエストニアでも共有されている。
 チェコ共和国の欧州問題担当副公使のヤクブ・ドュールは、英国から提示された資料や証拠を信頼していると述べている
 「我々にも些細なデータやインテリジェンスがある。しかし、英国の立場に関する限り、われわれは英国を完全に信頼している。」
 「議論が『高い可能性』といった形容詞で表現される場合、外交用語では多くのことを物語っている。そんな場合、われわれは友邦国を疑うことはない。」
 「我々にとって、(外交官追放の)決断の瞬間は、EUの指導者との議論においてだった。その日、われわれの首相はNATOのストルテンベルク事務局長とも会談を行った。この問題に関するNATOの見解は、重要だった。なぜなら、NATOにとって真実であることは、チェコ共和国にとっても真実であるためだ。」
 戦略的パートナーに対するこの種の恐喝は、われわれが考えるロシアの脅威というものに何の変化ももたらさない。」
 エストニアの政務事務次官であるポール・テーサルは次のように語っている。「我々は、ヨーロッパ全体の共通の努力の一環として、1名のロシア外交官を追放した。彼はロシア情報機関とつながりのある『高度な作戦要員』であった。しかし、英国を支持するという決定を下すまでにはさほど時間はかからなかった。
 「外交のカギはモスクワにある。国家が従わなければならないルールというものがある。ロシアもそのルールに従わなければならない。」
 ソールズベリーで元ロシアスパイのセルゲイ・スクリパルと彼の娘ユリアに毒ガスによる毒殺が試みられた日、モスクワに送られたメールには、『パッケージは配達された』という文言が含まれていた
 また、そのメールには2名が無事出発したとも記されていた。さらに、その2名の名前も添えられていた。」
 昨夜の情報筋の話によれば、このメールと、それ以前の通信傍受記録が、スクリパル毒殺に関するロシアに対する英国のインテリジェンスの中心をなしていた。
 インサイダーによれば、二つのメッセージは、南キプロスに駐留する英国空軍の通信傍受部隊の分析官によって傍受されていた。
 毒殺未遂の当日の3月4日、シリアのダマスカス近郊の場所から、『パッケージは配達された』という文言を含むメールが、モスクワの「とある官僚」に送られた。さらに、2名の個人が『脱出に成功した』と記されていた。
 このメールを見て、若き空軍中尉は、前日に傍受され、軽視されていた別のメールを思い出した。
 そのもう一通のメールの内容は明らかにされていないが、情報筋によれば、スクリパリへの襲撃の後では、関連性があることが明らかになったとのことだ。
 通信傍受記録は自動的にチェルトナム政府通信本部GCHQ)と共有される。
 それらは、インテリジェンスのパケットの「一角」をなすと理解された。そのために、テリーザ・メイ首相は、今回の襲撃の背後にロシアがいた「可能性が極めて高い」と述べたのである。
 ロンドンのロシア大使館が、『ソールズベリーの事件の調査と共に、両国間の幅広い問題を協議するために』駐英ロシア大使のアレクサンドル・ヤコベンコと英外相のボリス・ジョンソンの会談を求めた時に、これらの情報が表に出たのだ。
 英外務省は、この申し出を「目くらましの戦術(a diversionary tactic)」と切って捨てている。
 スクリパリ一家は、毒ガスのノビチョクで襲撃されたと信じられており、現在入院中である。

 モスクワから父を訪問していた33歳の娘のユリアは、先週、危篤状態を脱し、健康に向かっている。
 ソールズベリーに住む彼女の66歳の父も、もはや危篤状態は脱したといわれている。
 この傍受内容はアメリカ側にももたらされた。しかし、アメリカでは、トランプ大統領が3月20日にプーチン大統領に大統領選当選を祝福する電話を掛けたが、その際に毒ガスによる襲撃の件を持ち出さなかったとして批判されている。
 その6日後、トランプ大統領は、スクリパリ事件のために、60名のロシア外交官を追放している。
 アレックス・ヤンガーMI6局長は、個人的に、英空軍通信傍受部隊に「よくやった」というメッセージを送ったと言われる。
 情報筋によれば、「キプロス英空軍情報収集基地は、3月4日朝のロシアからの通信を傍受していた。」
 「傍受の詳細は機密事項だが、モスクワに送られたメッセージの一部には『パッケージは配達された』と記されていた」
 「それ以前24時間の傍受記録から、英空軍通信傍受士官が上官に,前日に送られた別の電子メッセージについて注意を促した」
 「日曜日の事件を前提にすれば、以前の傍受記録も直接関係していることがわかる。」
 同盟国の各国の外務省も,事件後、大使館レベルでは、ごく僅かな証拠しか手依拠されていなかったと語っている。
 完全な説明は、3月23日に、ブリュッセルの首脳会談の場で、安全保障顧問のマーク・セドウィル卿(Sir Mark Sedwill)によってなされた。
 ロシアに対する証拠は,大まかに分けて、2つのカテゴリーから構成される。
 第1のカテゴリーは、毒ガスのノビチョクそれ自身である。
 英国情報機関は、この兵器級の毒ガスが、モスクワの南東620マイルのシハニにあるロシアの放射能化学防衛科学技術研究所で製造されたという事実を突き止めたと信じられている。
 アメリカや他の同盟国に提示された報告書によれば、襲撃に用いられた微量の化学物質は、暗殺用兵器の開発という明白な目的のために,過去10年にわたって実験されていた。
 専門家によれば、スクリパリの事件では、僅か5ミリリットルのガスで十分であったとされている。
 第2のカテゴリーの証拠は、情報機関によるヒューミントと電子情報による。
 スクリパリ氏が回復しているというニュースは、アレクサンドル・ヤコベンコ駐英ロシア大使のジョンソン英外相への招待につながった可能性がある。
 ウエッブ上で発表された声明では、ロシア大使館は、「ソールズベリーの事件の調査と共に、両国間の幅広い問題を協議するために、アレクサンドル・ヤコベンコ駐英ロシア大使のジョンソン英外相との間で会談を設けるべき時間であると我々は信じている」と発表している。
 英外務省は「その要求を考慮し、しかるべき方法で対応する」と述べているが、ロシアを「異なる目くらましの戦術を追求している」と非難して言う。
 英外務省は「不十分なのはロシア側の対応である」と述べている。
 「我々はロシア側に、前向きに関与して、スクリパリ氏とその娘への殺害未遂に関連し多くの質問に答えるようにもとめてから3週間も過ぎてしまった」
 昨晩バッキンガム大学の安全保障インテリジェンス研究部門長のアントニー・グリース教授は、「モスクワが示すこの出来事の異なる解釈全ては、ロシアが英国を軽蔑していることを示している」と述べている。「私の見方では、今回の申し入れは、この政策の延長である」
 「私の見解では、この申し出は,こうした政策のさらなる一歩だ。」
 「ロシアは,スクリパル一家が完全に回復することを見越して、事態を収束させたいと望んでいるのかもしれない。」
 「我が国の政府は、ソールズベリーの毒殺事件でロシアを世界史の被告席に追いやった。」」

Sergei Skripal Russian message intercepted on day of poisonings | World | News | Express.co.uk

 EXPRESS紙は基本的に軽い記事が多いのですが、この記事には非常に熱がこもっていました。ポーランドエストニアなどの外交使節の談話が記事に盛り込まれていましたが、おそらくは,英国はその話の内容を敢えてリークしたと見ることも出来ます。ロシア側が暗殺事件への関与を否定した後で,こうした情報を出すのですから、今回の件では英国の一本勝ちというところでしょう。メイ首相も大いに女を挙げたといえます。

 その一方で、今回の一件は、ロシアにとっては大きな打撃となりました。毒ガスのノビチョクがロシア製の軍用であることを証明することはできなかったものの、通信傍受により、ロシア政府の陰謀であることが明らかになりました。こうなれば、暗殺の実態が暴露されてしまったロシアは引き下がるほかはありません。また、過去に例を見ない外交官の国外退去処分も正当化されたことになります。

 前回のリトビネンコ暗殺に続き,今回で二度目ですから、ロシアは国際的信用をヨーロッパ諸国からほぼ完全に失ったと考えられます。それと同時に、ヨーロッパ諸国とロシアの関係改善の可能性は、短期的にはほぼゼロになりました。

 その結果、ロシアはまだしばらくの間、経済制裁を受け、国際社会での孤立が続くことになります。結局のところ、今回の暗殺未遂は、ターゲットを殺し損ねただけでなく、ロシアの国際的信用を失わせる結果に終わりました。これを呪いと言わず何というのでしょうか。

 ちなみに、オルドリッチのGCHQはお勧めです。英語の本が読める方にはお勧めします。