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ロシアをけん制する安倍外交

 2016年末のプーチン訪日が転換点でしたね。あの段階でトランプがアメリカ大統領に決定しており、日本との関係強化は必要ないと判断したプーチン大統領が、少なくとも、東アジア情勢においては、失敗する原因を作っています。むしろ、ロシアは朝鮮半島に重心を移しており、今後の日ソの関係強化は望み薄となりました。

 ここで、ロシアとのさらなる関係強化が臨めない以上、ロシアに対する外交的な牽制が必要になりました。それが、今回の訪欧の目的といえます。

 日経新聞からです。

「【リガ=山崎純】欧州歴訪中の安倍晋三首相は13日、ラトビアのクチンスキス首相とリガの首相府で会談した。その後、リトアニアのスクバルネリス首相とも会談し、エストニアを含めたバルト3国への訪問を終える。3国への訪問は日本の首相で初。視線の先にあるのは、対ロシア関係を踏まえたバランス外交だ
法の支配に基づく国際秩序が挑戦を受けるなか、これを維持・強化すべく緊密に協力する」。安倍首相は12日(日本時間13日未明)、日エストニア首脳会談後の共同記者会見で強調した。エストニアのラタス首相がウクライナに侵攻したロシアへの制裁維持を訴えたのを受けた発言で「名指しはしないがロシアへの厳しい姿勢をアピールした」(政府関係者)。
 今回のバルト3国訪問の背景にはロシア政策をめぐる狙いがある。「日本がロシアに甘いという誤解を解きたい」。外務省関係者はこう語る。
 バルト3国は小国だが、国境を接するロシアを巡る問題では一定の発言力はある。北大西洋条約機構NATO)と欧州連合(EU)の一員であり、ロシアによるウクライナ南部クリミアの併合後にはNATOが部隊を展開し、欧米の対ロ抑止の最前線となった。第2次世界大戦ではソ連に強制的に併合された歴史もあり、ロシアへの反感は根強い。
 それだけに、日本の対ロ政策が「融和的」と反感をもたれる恐れはある。日本は北方領土交渉でロシアから前向きな態度を引き出したい思惑から、共同経済活動や極東での経済協力の検討を進めている。対ロ制裁に動く欧米各国で批判が広がれば日本が国際社会で孤立するリスクもはらむ。
 「首脳会談で安倍首相は日本の最近の対ロ政策を丁寧に説明していた」。会談の出席者は語る。安倍首相が会う機会が多い主要国首脳だけでなく、ロシア問題に深く関わる3国のトップにも日本の思いを直接語りかけ、国際社会での理解の輪を広げていく狙いだ。
 バルト3国はもともと日本への感情は悪くなく日本語教育が比較的盛んな地もあるという。首相はリトアニアでは第2次世界大戦時にユダヤ人へのビザを発給し続けた外交官、杉原千畝氏の記念館を訪問する。こうした交流を通じ日本との関係の深さを訴える考えだ。
 今回の訪問では北朝鮮問題での連携も確認した。「北朝鮮はタリンも射程に収める弾道ミサイルを発射した」。安倍首相は共同記者発表でわざわざエストニアの首都の名前を挙げ危機感を訴えた。ラタス首相も「我々は傍観者であってはいけない」と応じ北朝鮮核武装は認めず圧力を最大限高めることで一致した。
 安倍首相はバルト3国への訪問後、ブルガリアセルビアルーマニアの各国で首脳会談を行い17日に帰国する。」

バルト3国と連携強化 視線の先には対ロ関係 :日本経済新聞

 この日経新聞の記事は、あくまで北朝鮮問題は副次的な問題であることを明確にしている点で意味のある報道です。「法の支配に基づく国際秩序が挑戦を受けるなか、これを維持・強化すべく緊密に協力する」というのは、ロシアに対する牽制に他なりません。ロシアのこれ以上の軍事行動には強い意志で反対すると表明したのです。日本がこれ以上ロシアに対しては融和的な姿勢がとれないということの表れと見ることも出来るでしょう。

 そもそも、今回の北朝鮮危機に関しても、英国は新空母クイーン・エリザベスすら極東に派遣すると公言しています。その背景には、険悪な英露関係があります。リトビネンコ暗殺以来悪化し続けている両国関係が、極東の情勢にも影響を与えているのです。

 したがって、今回の安倍首相のバルト三国訪問の意味は、ロシアがバルト三国を軍事侵攻した場合には、日本もそれなりの対応を取るということを言外に示すことにありました。ロシアがヨーロッパでさらなる軍事行動を取るなら、裏門である極東情勢は悪化するという控えめな恫喝であるといってよいでしょう。

 現在の所、米中、中印は、今後軍事紛争にまで発展する可能性が高いと考えられます。そこで、ロシアが対応を誤れば、中国と同じ運命を辿ることになります。少なくとも、プーチンはその可能性は考慮していることでしょう。

 残念ながら、今後数年での北方領土返還の可能性は非常に低くなりましたが、NATO諸国との結束の強化は、極東における日本の立場の強化につながることは間違いがないでしょう。はっきりは言えませんが、日本は今後アメリカの核の傘だけでなくNATO核の傘によっても守られることになります。米中衝突の過程では中国側は旧ソビエトとは異なり、核を用いる可能性が高いと考えられます。その際の強力な助っ人となるわけです。