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習近平の今後をまじめに考えてみた

ローマからアモーレ

 習近平政権の対米政策を占う上で、今回のアルゼンチンでの米中首脳会談(正確にはワーキングディナー)での中国側の陣容を考察しておくことは、欠かすことができません。

  まず筆頭にあげられるのは、丁薛祥(ていせつしょう)党中央弁公室主任(政治局員)です。現在の習近平政権のNo.2であり、役職としては官房長官に相当します。この種の首脳会談では、官房長官が本国に残ることが通例ですから、かなり異様な首脳会談で会ったといえます。
 そこに、劉鶴(りゅうかく)副首相(政治局員・元党中央財経領導小組弁公室主任)、楊潔篪(ようけっち)党中央外事領導小組弁公室主任(政治局員)が加わります。中国の対米通商問題の交渉は、劉鶴の担当ですから、これは順当な人選です。また、外交のトップは楊潔篪ですから、これまた順当な人選です。
 残りの王毅国務委員兼外相、鍾山商務相、何立峰国家発展改革委員会主任、王受文商務次官、崔天凱駐米中国大使は、まあおまけといったところです。むしろ、この首脳会談で決定されたことを実行する立場とでも言えば良いのでしょうか。
 このリストが興味深いのは、現在の習近平政権の重要閣僚がかけていることです。その重要閣僚とは、王滬寧(おうこねい)党中央政策研究室主任です。「中国の夢」といったスローガンに代表される習近平体制を制度を設計したのが王滬寧なのです。
 また、一帯一路政策についても「一帯一路」建設工作指導小組の組長には張高麗副首相が就任していましたが、副組長には王滬寧、汪洋副首相、楊晶国務院秘書長、楊潔篪国務委員が加わっています。楊潔篪は別格としても、王滬寧にしても汪洋にしても失脚気味であるのは明らかです。今年の北載河会議でも、王滬寧は欠席していますから、希代の理論家とされていた王滬寧は、実質上失脚しており、一帯一路政策も、アメリカに対して正々堂々と主張できる立場にないと判断できます。
 こうしてみると、丁薛祥の出席がかなり異様な事態であったことは確かでしょう。その背景を推測すれば、一つには、自分が最も信頼できる側近に現状を見せるという目的があったと考えられます。丁薛祥は、腹心中の腹心ですから、党常任委員会でも、どちらかと言えば、習近平の強国路線を支持する立場から発言していたとみられます。そんな彼に、現実を見せることでクールダウンをはかったということです。
 もう一つの要因として推測されるのは、習近平が一連の米国の対中攻勢に正気を失っているということです。これは、トランプとともにとられた写真でも、いかにも「こころここにあらず」といった風貌であることから、習近平の従来の路線が完全に否定されるに及び、動揺していることが見て取れます。さらには、アドリブがきかない習近平を補佐するという役割があったのかもしれません。
 事実として明白なのは、アメリカのトランプ政権は、「Made in China 2025」に代表される中国の政策を完全に否定しており、通商面で中国を締め付けることで、中国の覇権国家への発展を何が何でも抑止しようとしているということです。
 そこで、堂々と対応することができない習近平が、中南海の長老たちから再び支持を受けるかと言えば、それは大きな疑問です。つまり、習近平の三期目は、理論的には可能になっていますが、事実上あり得ないということになります。
 おそらく、現在中国は、アメリカに強く抵抗するか、アメリカの要求を受け入れて一時撤退するかの二つの選択で迷っているといえます。次期の習近平政権がないとすれば、アメリカ強硬派が台頭することになるでしょう。それは、アメリカに迎合すれば、中国が再びアメリカを追い越す次期がさらに先延ばしになるためです。2021年までの台湾奪取という大目標が、ほぼ実現不可能になるためです。
 ここにはさらに大きな問題が潜んでいます。それは、アメリカ強硬派は、アメリカに対して戦争を遂行する意志を固めるかどうかということです。これまでの習近平政権において、中国は、少なくとも、日本に対して何度も軍事紛争を狙っていました。2009年の漁船と海保の船が衝突した事件や、2011年の震災前の人民解放軍の動向から見れば、習近平自身が対日強硬派、対米強硬派であったことが確認できます。それでは、なぜ中国が、その意思を実行に移さなかったのか。それは、民主党政権の時代に韓国経由で入手された情報を検証した結果、とうてい日本には勝てないという結論がでてしまったためでした。中国人民解放軍海軍の潜水艦の性能の比較をするだけでも、中国が日本やアメリカに戦争を仕掛けることがいかに無謀なことかが明白になってしまったのです。
 ここで興味深いのは、習近平はそのデータを次の世代に継承するかということです。ここが中国人の面白いところなのですが、自分が失敗したプロジェクトを、後の世代に素直に継承するとは考えにくいのです。ということは、客観的なインテリジェンスを持たないまま、習近平の次期政権はアメリカに挑戦的な政策を採用することになります。その結果は、どうなるのでしょうか(笑)。