トランプの安全保障戦略に対する中国、ロシアの相違
先週、トランプ大統領は国家安全保障戦略を公開しました。その中で、はっきりと潜在敵国と明示されたのは、ロシアと中国でした。
しかし、興味深いことに、ロシアと中国の対応は微妙に異なっていました。
ABCニュースから紹介します。
「ロシア政府と中国政府は、トランプ大統領の新たな国家安全保障戦略を“帝国主義的”であり、“冷戦”のメンタリティーであると批判している。しかし、モスクワの反応は、米ロの共通の基盤があることを示している。
トランプ大統領によって発表された国家安全保障戦略は、世界は、列強が競い合う場に逆戻りしたと描いており、飽くなき「アメリカ・ファースト」のアプローチによってのみ対応出来るとしている。トランプ大統領は、比類なきアメリカの強さによってロシアや中国といった国からの挑戦を抑止出来なければならないと述べた。
「好もうと好むまいと、我々は新たな競争の時代に突入している」と、トランプは演説で述べた。「弱さは紛争を引き起こす最大の原因であり、比類なき力が最も確実な防衛手段であると、我々は認識している」
中国とロシアはアメリカにとっての3つの挑戦の中に位置づけられていた。そして、トランプはこれらの諸国を、「ならず者国家(rogue regimes)」を従えた「修正主義勢力(revisionist powers)」と呼んだ。
中国の国営新華社通信は、この戦略に対して、トランプ政権での「強硬派」の勝利と呼んだ。中国外交部の華春瑩報道官は、「アメリカに冷戦期のメンタリティーとゼロサムゲームのコンセプトを捨てる」ように求めた。そして、そうできなければ「他国だけでなくアメリカも傷つく」と警告した。
ロシアのプーチン大統領の報道官も、今回の米国の国家安全保障政策は「明白な帝国主義的性質」を持ち、一極世界というアイデアを放棄できないことを示していると記者に語った。
しかし、クレムリンの反応は、混じり合ったものであった。ドミトリー・ペスコフ報道官は,この文書には「肯定的側面」もあると語っている。というのも、この文書が言及している米ロ関係という観点はプーチン大統領も共有している、つまり、米ロは利益が合致する領域では協力するべきだというのである。
「これは,プーチン大統領が提唱する我々のアプローチと完全に一致している。なぜなら、モスクワは双方にとって利益のある分野でアメリカとの協力を求めており、アメリカ側の姿勢にかかっているからだ」
トランプ大統領の戦略は、ロシア外交官がしばしば表明していた世界観を再確認している部分がある。つまり、それぞれの国家が、普遍的価値への関心を表明することなどなく、物怖じせず自らの国益を追求しているという世界観である。また、トランプ大統領の戦略は、オバマ前大統領が外交政策の基軸としていたグローバルな協力関係への強調を暗黙の内に拒絶している。
「この戦略は現実主義である。なぜなら、グローバルな競争をはっきりと見据えているからだ。この戦略は、世界の問題におけるパワーの中心的役割を認めており、主権国家が平和な世界の最良の希望であることを認め、国家の利益を明確に定義しているためだ」とこの文書に付属するホワイトハウスの声明が述べている。
にもかかわらず、今回の文書はロシアを、「現代化された破壊工作戦術(modernized forms of subversive tactics)」という文言を用いて、世界中で他国の内政に干渉していると名指ししている。その中には、サイバー作戦、機密作戦、国有メディア、それに「ソーシャルメディアの有料ユーザー」もしくは「煽り(つり)」を使用することも含まれている。
トランプ大統領は演説の中で「サイバーやソーシャルメディアといった新た領域」に言及し、アメリカを攻撃する可能性に触れている。しかし、トランプ大統領はロシアが昨年の大統領選に介入したとははっきり述べなかった。その代わりに、トランプ大統領は、CIAの情報提供がサンクトペテルブルクでのテロ防止につながったことを強調し、プーチン大統領もその点では謝辞を表明している。
「これは大変なことだ」とトランプ大統領は述べた。「そして、こうでなくてはならない」
プーチンの報道官のペスコフもこの事件を記者会見で言及している。
米ロ関係は、長引く対決関係の中で困難な状況に陥った。そして両国がそれぞれの外交使節の規模の縮小を余儀なくされた。クレムリンは,依然としてトランプ大統領を個人的に信頼しており、トランプ大統領周辺の人物との険悪な関係を非難している。プーチン大統領は,先週開催された年末恒例の記者会見で、トランプ大統領を賞賛している。
「トランプ大統領には米ロ関係改善の意思を持っているのか,あるいはその意思は消え去ったのか、聞いてみなくてはならない。彼は米ロ関係改善に前向きであると私は希望している」とプーチンは述べた。「我々は、両国の関係を正常化しているところだ」」
Russia calls Trump's national security strategy 'imperialist' - ABC News
この記事の一番興味深い点が、ABCNewsが伝えているという点です。内容はといえば、中国にも言及されていますが、主に米ロ関係の改善傾向が主なテーマになっています。アメリカのメディアも米ロの関係改善に反対しなくなっているということが印象的でした。少なくともABCはトランプ政権には中立的な姿勢を維持すると決定したのでしょう。
その意味ではいまだに批判的なワシントンポストなどとは対照的な動きです。
ロシアも中国も,アメリカがアメリカ・ファーストと主張するだけで「帝国主義的」というのですから、よほど、ロシアも中国も日常的に帝国主義的政策を追求していると考えて良さそうです。
米ロ関係が改善に向かっているとすれば、問題は中国ということになります。ただ、ロシアのネックは、東欧での国際的緊張を高めている張本人がロシアだという点です。少なくとも、NATO諸国からは当分信用されないでしょう。また、アジアで国際紛争が勃発して、中国側が有利と見れば、プーチンは東欧諸国、特にバルト三国、ポーランドなどへの軍事侵攻を開始するでしょう。
そして、最大の障害が、今や最悪と言える英露関係です。リトビネンコ暗殺以降、この2カ国の関係は悪化するばかりです。最近の日本と英国の軍事協力の深まりは、日英同盟の復活と言われていますが、日英同盟の目的はロシアの挟撃にあったということは忘れてはならないでしょう。
ロシアが、中国と組むのか。あるいは、中立を決め込むのか。これが東アジアだけでなく、ユーラシア大陸全体の運命を決すると言っても良いでしょう。