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中国ウオッチャーあれこれ

中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由

 これだけ見解がずれるとどちらが正しいのか判断に困ります。

  まず、富坂聰氏の見解を紹介しましょう。
 「5カ月間の閣僚級協議で中国は、知的財産権の保護や産業補助金削減、為替政策の透明化などで協定文を作成することに合意していたが、5月に唐突に内容の見直しを要請してきたという。
 ひっかかった問題は国有企業への党の関与へのクレームだ。これは社会主義国や途上国と経済協定を進める際に必ず乗り上げる暗礁だ。文化摩擦でもある
 TPP加盟に際し、ベトナムやマレーシアが反発したのと同じだが、中国の場合にはここにもう一つのややこしい問題がからむ。
 地方を統治しきれない中央の悩みである。
 言論統制し、規律検査で官僚を震え上がらせ、個人崇拝にも近い独裁ぶりが伝えられる中国で何を言っているのか、と言われそうだが、実態はそうなのである。
 地方には地方の権力があり、それと対立関係に陥れば国の運営は困難を極める。これは国有企業も同じなのである。
 この問題は簡単に外国と約束しても、実態として「できていない」という事態に陥ることは目に見えている。アヘン戦争に敗れて自由貿易を認めながら、不十分だったために起きた「アロー号事件」の再現だ。
 やるという意思はもっているが、約束はできない。これも習政権の本音だろう。」

【真・人民日報】貿易戦争で米への反発避ける中国 国務院OB「反発してるのはネットのバカだけ」 (1/2ページ) - zakzak

 これでは、中国が「約束が守れないから、約束を反故にした」ことを一生懸命弁護していると取られても仕方がないでしょう。冨坂氏の主張は、中国の統治機構は十分に協力ではなく、今回の通商問題の行き詰まりもそこに原因があるというものです。うがった見方をすれば「中国の状態が整っていないので、少し待つべきでは」と言っているようにも聞こえます。

 それに対して中沢克二氏は日経新聞で次のように指摘しています。
習近平と劉鶴のコンビによる意味深長な地方視察の1週間前、中国指導部内で大きな動きがあった。「5月13日は中国の内政と外交上、重要な日だった。この日から米国に対する強い姿勢が表に明確に表れた」。中国の政治関係者の指摘である。
 中国の対米姿勢の急旋回は、その5日ほど前にトランプが「中国が約束を破った」と暴露したことで既に世界へ波紋を広げていた。それは5カ月間もの米中交渉で劉鶴と米通商代表部(USTR)代表のライトハイザーが積み上げた7分野150ページにわたる合意文案の重要部分の破棄である。
 中国側は合意文案をいきなり30%も削って105ページにしてしまった。法的拘束力を持つ部分が「不平等条約」に当たる、という共産党内の強い声を受けた態度の豹変(ひょうへん)だった。
 中国の「約束破り」に怒ったトランプ政権が対中制裁関税の25%への引き上げを発動すると、中国側も一気に動く。習近平は13日、共産党政治局委員25人による意志決定の場である政治局会議を招集し、党内を対米強硬路線でまとめあげた
 キーワードは「階級基礎」と「大衆の視点」である。そして2017年秋の第19回共産党大会の精神に基づき「初心を忘れず、使命を心に刻め」と銘打った党内教育運動を6月にスタートすると宣言した。だが、これだけでは意味が分かりにくい。そこで中国内の交流サイト(SNS)を通じて広く出回った興味深い解説を紹介しよう。
 「両国の対峙は、衰亡する大国と新興大国の発展過程の対峙。米国の独占資本上層部と、マルクス・レーニン主義の労働価値観を掲げる中国共産党の対峙。そして異なる階級基礎の間の対峙である
 中国の監視当局がインターネット上に数多くある似たような文章を削除していないことから、準公式の解説と見てよい。まさに覇権国に新興国が挑戦する構図を指摘する「トゥキディデスのわな」を階級闘争史観から解説する分析である。
 さらに「レーニン選集」を引いて帝国主義国家による中国侵略などに言及する。覇権主義の米国に対して大衆の視点に立った闘争を訴えている。この考え方に基づくなら、5カ月間を費やしてまとめた150ページの米中合意文書案は、売国的なとんでもない「不平等条約」になってしまう。
 しかし、ことはそう単純でない。歴史を振り返れば、中国の対外強硬路線は時に内部の様々な矛盾を覆い隠す手段にもなってきた。政治、経済の両面で厳しい環境下にある習近平指導部は一旦、強硬姿勢で共産党内を統一し、戦線立て直しに動いている。そんな解釈も成り立つのだ。
 その時、大いに役立つのが政治運動である。習近平には6年前、苛烈な「反腐敗運動」で権力を固めた成功体験がある。それと一体だったのが群衆(大衆)路線運動だった。6月スタートを宣言した今回の運動にも似たキーワードがあった。
 政治局会議で内部固めを図った13日夜、中国は一斉に動いた。中国国営中央テレビのキャスターは夜のメインニュースで「米国がいかなる行動に出ようとも中国側は既に全ての準備を整えている」という強硬な論評を読み上げた。「国際鋭評」と称する共産党の統一見解である。
 この論評は、習近平が好む言いまわしで締めくくられていた。「中国経済は大きな海であり、無数の荒れ狂う風雨があっても依然、変わらずにそこにある」。同じ日の深夜、中国は対米報復関税の発動を発表した。
 それから3日ほどすると国営テレビは突然、米国の覇権主義に対抗し、北朝鮮を救う「抗米援朝」の映画を繰り返し放送し始めた朝鮮戦争(1950~53年)の際、建国したばかりの新中国は人民志願軍の形で北朝鮮に兵を送った。米軍との戦いでは多大な犠牲者が出ている。朝鮮戦争を題材とする映画は「米帝国主義を打倒せよ」をスローガンとして1960年代に数多く作られた。
 トランプ政権がファーウェイへの部品などの禁輸措置に踏み切ると、中国の国営メディアは同じ「国際鋭評」で、トランプのブレーンだったスティーブン・バノン(トランプ政権の元首席戦略官・上級顧問)を正面から非難する論評を出した。バノンのような「『新右翼』こそ米国の本当の敵だ」と決めつけている。国営メディアが総力をあげて外国の個人を攻撃するのは極めて異例である。
 では対米強硬に転じた中国は今後、どう振る舞うのか。米財務長官、ムニューシンは先に次回、北京での米中交渉再開に言及したが、中国側はあえて確認を避けた。あくまで強気である。とはいえ、このままでは中国経済に大きな打撃となる。」

「米帝打倒」 強硬に転じた習氏の新たな政治運動 (写真=共同) :日本経済新聞

 中沢氏のこの記事によれば、5月13日に習近平が対米姿勢を硬化させたことがはっきりと明示されています。そして、今後アメリカとの対決姿勢を深めていくこともわかります。中沢氏が正しければ、少なくとも、今後数か月は米中対立は深まるわけで、この点では改めて検証してみたいと思います。