アメリカという時代の終わり
トランプ大統領の言わんとするところは、全く理解できないということもないのです。歯切れは悪いですが、「これをやってはおしまい」という行動が多すぎるのが問題です。
トランプ大統領は、23日に、マティス国防長官は、来年の1月1日に退職すると慌ただしく発表しました。いつものツイッターでです。
ケリー首席補佐官も、辞任することになっていましたから、マティス国防長官の辞任もほとんど時間の問題だったのでしょう。
今回の辞任劇でトランプ大統領を激怒させたのは、マティス国防長官の辞任状の公開にありました。この手紙の公開により、トランプ大統領に批判的な議員や、国防関係者は皆こぞってマティス長官の決断を賞賛し、それがケーブルテレビで延々と流されたのですから、マティス長官に早々に退かせたのは、理解はできるのです。
ただ、今回のマティス長官が辞任する決断を下した背後には、米軍のシリアからの一方的撤退というトランプ大統領の決断がありました。現在振り返ってみれば、これはアメリカという国家の信認を左右する問題であったといえます。
そもそも、シリアでのアラブの春による政情不安から、シリア内戦が始まり、世界中からイスラム過激派が結集し、最終的にはイスラム国を生んだことは記憶に新しいところです。イスラム国の残虐非道ぶりは世界中に大きなショックを与えました。
その内戦の過程で、シリアのアサド大統領に批判的な姿勢をとり続けたのがオバマ大統領でした。臆病であったオバマ大統領はシリアへの軍事介入を徹底的に回避しました。その代わりに出された代案が、クルド人への支援を行うことで、イスラム過激派を、そしてできればシリアのアサド政権を打倒するというプランでした。
クルド人と言えば、国家を持たない民族です。ですから、アメリカのこの提案にクルド人は乗ったのです。おそらくは、内々には独立も認められていたと考えるのが自然でしょう。
シリアの内戦もようやく終結にさしかかってきたところで、トランプ大統領の気まぐれでシリアからの撤退、すなわちクルド人への支援の停止が決定されたのです。
これでは、命がけで戦ったクルド人民兵ははしごを外されることになります。それと同時に、アメリカは同盟者を、同盟国を守らないということを全世界にしらしめることになります。
アメリカが自国の都合ばかりを考えて、同盟をおろそかにするとすれば、アメリカを中心とした覇権構造は今後崩壊せざる得ないといえるでしょう。カタール断行の時からおかしな感じはしていたのですが、トランプ大統領に代表される「アメリカだけ良ければ良い」という「アメリカ第一主義」が支配的である限り、アメリカとの同盟には大きなリスクがつきまとうことになります。
ただ、そんなことはアメリカの安全保障・外交関係者にはよくわかっているはずです。今後はペンタゴンからトランプ大統領に強烈な巻き返しが演じられることになりそうです。
つまり、シリア問題は今後こじれるということです。すると、米ロの角逐はますます激化するということになるでしょう。2019年は、米中だけでなく、中東で米ロが対決するという構図が生まれそうです。