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スケープゴートとしての王滬寧(おうこねい)

ハイブリッド外交官の仕事術 (PHP文庫)

 今回は、このブログにしては珍しく、元外交官の宮家邦彦氏の所説を取り上げることにします。

  「今週は、このコラムにしては珍しく、中国内政に関する「噂話」を真正面から取り上げる。理由は、ゴシップの中身もさることながら、この程度のことを大々的に報じるいい加減な中国関連記事が日本は勿論、世界にも少なくないからだ。最近はトランプ氏、金正恩氏、プーチン氏による田舎芝居の影で中国の出番がなかったからだろうか。まずは事実関係と噂の内容のみを可能な限り客観的に述べよう。
・7月4日朝、上海で若い女性が「習近平の独裁的専制的暴政に反対する」などと述べながら、市内の看板上の習近平の顔に墨汁をかけ、その後拘束された。
7月9日と15日付人民日報の一面に「習近平」の文字がなかった。12日には北京の警察が「習近平の写真・画像やポスターおよび宣伝品」を撤去するよう通知した。
・最近、党内序列五位の王滬寧政治局常務委員・党中央書記処常務書記の動静が確認できなくなり、失脚が噂されている
・香港メディアによれば、江沢民胡錦濤・朱鎔基ら党長老が習近平への個人崇拝に不満を抱き、政治局拡大会議を開いて習近平を失脚させる動きがある。
 他にもあるが、もう十分だろう。これだけの事実と噂話だけで中国専門家の一部は実に尤もらしい解説をやってのける。大したものだ。習近平氏の権力集中と個人崇拝に対する不満が、民主活動家だけでなく、党長老や国営メディア関係者の間にも高まりつつあり、習近平派の要人や習近平氏自身も失脚した可能性があるのだという。
 本当かね?確か習近平氏は現在外遊中、帰国後は避暑地・北戴河で毎年恒例の共産党幹部非公式会議に臨むはずだ。よく考えてみたら、毎年「北戴河会議」の前後はこの種の面白可笑しい噂が氾濫する時期でもある。中国に限らないことだが、ある国の内政分析には公開情報をじっくりと読み込む努力が不可欠だと痛感する。」

 習近平氏失脚を論じる愚 | NEXT MEDIA "Japan In-depth"[ジャパン・インデプス]

「ある国の内政分析には公開情報をじっくりと読み込む努力が不可欠」という点では、私も完全に同意します。

 ただ、「毎年「北戴河会議」の前後はこの種の面白可笑しい噂が氾濫する時期でもある」として、今回の中南海での政変を察知できないとすれば、それはそれで問題があるでしょう。そもそも、人民日報の一面に習近平の記事が無いこと自体が大ニュースな筈です。政変といえなくとも、中国という国家の基本方針が揺らいでいることは確かなのです。

 結論から言えば、習近平は現在厳しい立場に立たされており、腹心の側近を失った可能性が高いのです。その側近とはここにも挙げられている王滬寧です。

 今回の外遊で習近平の一向に加わらなかったのが、王滬寧と劉鶴です。劉鶴は、対米経済協議の失敗が原因です。深刻なのは王滬寧の方です。

 王滬寧は1955年10月上海生まれです。鄧小平の改革開放政策が始まった年の1978年、上海の名門、復旦大学国際政治系に入学。卒業後も大学に残って全国最年少の30歳で同大准教授に就任したほどの秀才です。法学院長などを歴任した後1995年、当時の江沢民総書記に見いだされ、復旦大学を離職し中央直属機構の中央政策研究室に異動、北京の中央政界に入りました。
 その後、指導部のトップブレーンとして理論の構築に専念することになります。江沢民氏の「三つの代表」、胡錦濤氏の「科学的発展観」、習近平氏の「中国の夢」、そして今回の党大会で党規約に盛り込まれた「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」はいずれも同氏が手がけたとされています。

 つまり、江沢民から、胡錦濤を経て、習近平に至るまで国家のグランドデッサンを造るという中華帝国の参謀の役割を果たしてきたのが、王滬寧なのです。

「一帯一路戦略」は王滬寧と劉鶴が立案者とされています。さらに「一帯一路」という命名は王滬寧が考え出したものともいわれているのです。また、王滬寧は習近平が各国指導者との会談における受け答えの振り付けも行う習近平のブレーンとして知られており、重要な外遊に同行することが多かったのです。その彼が今回の外遊に参加していない、ということは、アメリカの関税戦争により、一気に中国の立場が弱体化し、そのスケープゴートとして王滬寧がやり玉に挙げられたと考えるのが合理的です。

 3代の政権に仕えた参謀が失脚するというのはやはり異常な事態です。それだけ、習近平への批判が高まっているということであり、即座の失脚という自体はあり得ないとしても、三期目は絶望的になったのはだれの目にも明らかでしょう。