新大使の人物像から考える今後の日米関係
後任の中日アメリカ大使が決定しました。議会での承認が必要ですがおそらくすんなり決まるでしょう。なかなかの大物です。
今回駐日大使に就任するのはアメリカの保守系のシンクタンクハドソン研究所のトップケネス・ワインスタインです。ハドソン研究所のHPから彼の経歴を紹介しましょう。
「 ケネス・R・ワインスタインは、ハドソン研究所の社長兼最高経営責任者であり、ウォルター・P・スターン議長の後任である。彼は1991年に研究所に入所し、2005年6月にCEOに任命された。2011年3月に社長兼CEOに指名された。
初期の啓発に焦点を当てた学術研究の訓練を受けた政治理論家であるヴァインシュタイン博士は、米国および世界中のさまざまな問題について、政策およびオピニオンリーダーの有力なインフルエンサーおよび思考リーダーとしての評判を確立しています。彼は、ウォールストリートジャーナル、ルモンド、読売新聞など、米国、ヨーロッパ、アジアの出版物の国際問題について広く執筆している。 2006年、彼はフランス政府によって芸術文化勲章を贈られ、アメリカとヨーロッパの非営利団体の役員を務めている。
ワインスタイン博士は、アメリカのグローバルメディア代理店の監督機関である米国放送理事会理事長であり、その機関にはVoice of America、Radio Free Europe / Radio Liberty、Radio Free Asia、Middle East Broadcastingが含まれます。ワインスタインは、貿易政策と交渉に関する諮問委員会にも参加しており、米国貿易代表に貿易協定に関する助言を提供しています。彼は以前、全米人文科学基金の運営機関である全米人文評議会に勤めていました。
彼は世界中の主要な放送局やケーブルテレビからよくインタビューを受け、フランス語とドイツ語を話します。フランスのテレビやラジオに頻繁にゲストとして参加している彼は、1996年以来、アメリカの議会選挙と大統領選挙をフランス語で生中継するスタジオのコメンテーターを務めている。
彼はThe Essential Herman Kahn:In Defense of Thinking(Lexington Books、2009)の共同編集者である。
ワインスタイン博士はシカゴ大学D.E.A.の人文科学の一般研究パリ政治研究所のソビエトおよび東ヨーロッパの研究、および博士号ハーバード大学の政府で学士号を取得した。」
Experts - Kenneth R. Weinstein - Hudson Institute
このプロファイルを見れば、民間のシンクタンクとはいえ、非常に政府に食い込んでいる人材であると言えるでしょう。特に顕著であるのはメディアへの露出が多いだけでなく、メディアを監督する立場にもある。特にフランスとの関係が深い。こんな人材の駐日大使に指名したのは、東アジアにおける戦争を意識した布陣であろうといえます。
特にハドソン研究所は日本との関係も深く、日本政府が対米工作の一つの足掛かりとしている気配が濃厚です。例えば、最近では次のようなニュースもありました。
「米シンクタンク、ハドソン研究所は[2019年7月]22日、日本部長の新設とマクマスター前大統領補佐官(国家安全保障担当)の就任を発表した。ワインシュタイン所長は声明で、日本部門の新設によって「日米間の経済的な関係を拡大し、防衛協力を強化し、科学技術面での協力を推進していく」と強調した。
マクマスター氏は陸軍出身で、2017年2月、トランプ政権で2人目の安保補佐官に就任。イラン核合意やアフガニスタン戦略などをめぐってトランプ大統領と意見対立があったとされ、18年4月に辞任した。」
元大統領補佐官がジャパンデスクを務めるというわけです。当然アメリカの対日政策だけでなく、周辺諸国との関係も考慮されていることでしょう。
安部首相もハドソン研究所のハーマン・カーン賞を受賞しています。
実際、安倍首相とハドソン研究所の関係は
「私はハドソン研究所においても、私たちが日本版NSCをつくり、あるいは今後、安全保障のための戦略をしっかりとつくっていくということ。あるいはまた、集団的自衛権の憲法上の解釈あるいは集団安全保障下におけるさまざまな憲法解釈等についての検討は、どういうことのために我々は行っているのか。私たちが何を考え、何を目指しているのかということについて説明を行いました。」(官邸HPより)
というものでした。つまりアメリカの政権に対してハドソン研究所を使って働きかけを行っていたということです。
なによりも目を引くのはハーマン・カーン賞受賞演説です。
「ここで、安全保障の問題に話題を転じたいと思います。
問われているのは、次のようなこと、すなわち、いまや脅威がボーダーレスとなったこの世界で、日本は、きちんと役割を担うことができるかという問題です。
具体例でお話します。
第一の例は、国連PKOの現場です。日本の自衛隊が、別の国、X国の軍隊と、踵を接して活動していたとします。
そこへ突然、X軍が攻撃にさらされるという事態が起きました。X軍は、近くに駐屯する日本の部隊に、助けを求めます。
しかしながら、日本の部隊は助けることができません。日本国憲法の現行解釈によると、ここでX軍を助けることは憲法違反になるからです。
もうひとつの例。今度は、公海上です。
日本近海に、米海軍のイージス艦数隻が展開し、日本のイージス艦と協力して、あり得べきミサイル発射に備えているとします。
これらの艦船は、そのもてる能力をミサイル防衛へ集中させるあまり、空からの攻撃に対しては、かえって脆弱になっていたと、そういうケースです。
そこへもってきて、突然、米イージス艦1隻が、航空機による攻撃を受けたとします。
またしても、日本の艦船は、たとえどれだけ能力があったとしても、米艦を助けることができません。なぜならば、もし助けると、それは集団的自衛権の行使となり、現行憲法解釈によると違憲になってしまうからなのです。
まさに、こういった問題に、いかに処すべきか、わたしたちはいま真剣に検討しております。
いまの時代、すべてがつながっています。ネットワークから外れるものは、何もありません。宇宙に国境なし。化学兵器は、国境を越えて行きます。
私の国はそんな中、鎖の強度を左右してしまう弱い一環であることなどできません。
ご参集の皆様、ですからこそ私は、日本経済の再建に一所懸命に努力しつつ、同時に、わが国安全保障の仕組みを新たなるものにしようと、やはり懸命に働いているわけです。
日本は、全く初めてのこととして、国家安全保障会議(NSC)を設立します。
同じくまったく初めてのこととして、我が国は、国家安全保障戦略をおおやけにします。日本が大切にしているものとはいったい何で、日本の目指すところは何かということを、そこでは記すこととなるでしょう。
そして本年、我が政府は、実に11年ぶりに防衛費を増額しました。
いったいどれだけ、と、お知りになりたいでしょう。
でもその前に、日本はすぐそばの隣国に、軍事支出が少なくとも日本の2倍で、米国に次いで世界第2位、という国があります。
この国の軍事支出の伸びを見ますと、もともと極めて透明性がないのですが、毎年10%以上の伸びを、1989年以来、20年以上続けてきています。
さてそれで、私の政府が防衛予算をいくら増額したかというと、たったの0.8%に過ぎないのです。
従って、もし皆様が私を、右翼の軍国主義者とお呼びになりたいのであれば、どうぞそうお呼びいただきたいものであります。
まとめとして言うならば、日本という国は、米国が主たる役割を務める地域的、そしてグローバルな安全保障の枠組みにおいて、鎖の強さを決定づけてしまう弱い環であってはならない、ということです。
日本は、世界の中で最も成熟した民主主義国の一つなのだから、世界の厚生と安全保障に、ネット(差し引き)の貢献者でなくてはならない、ということです。
日本は、そういう国になります。日本は、地域の、そして世界の平和と安定に、いままでにも増してより積極的に、貢献していく国になります。
みなさま、私は、私の愛する国を積極的平和主義の国にしようと、決意しています。」(官邸HPより)
まあ、一読すればわかるのですが、乗りに乗った演説であったと言えるでしょう。こうしたシンクタンクの所長が改めて駐日大使を務めるということは、今後日米が共同して対応しなければならない安全保障上の問題がある、はっきり言えば中国との戦争がまじかいということではないでしょうか。