米加貿易戦争の行方
誰も指摘していないのですが、大丈夫なのでしょうか。おそらく、日米貿易交渉も改訂版NAFTAによって影響を受けるはずですが、肝心のNAFTAの改定が進んでいません。なぜなのでしょうか。
米カナダ協議で大きな争点となっているのは、米メキシコ間で撤廃が合意された紛争解決制度です。これまでカナダからの木材輸出に対して何度もアメリカは反ダンピング関税を課してきました。そうしたアメリカの動きに対抗するために、カナダはNAFTA第19章に規定された紛争解決制度を使用してきました。これは、反ダンピング(不当廉売)関税措置などを発動した相手国に対し、加盟国が「2国間パネル」に措置の妥当性の審査を訴えることができる仕組みです。歴史的経緯でいえば、パネルがたびたび米国に不利な判断を示してきました。カナダにとっての重要な楯であるわけです。
しかし、アメリカがメキシコと締結しようとしている新NAFTAでは、この項目が省略されてしまいました。
それ以外にも、乳製品を中心とした農産物市場の開放、自国のメディア産業などへの一定の保護を認める「文化例外」の扱いが、交渉での障害となっています。ここで焦点になるのは、ケベック州の問題です。ケベックはカナダでも酪農が盛んな地域で、フランス語がつかわれている地域です。そのために、ケベック州のカナダからの独立はこれまでも何度も問題にされており、カナダ政府としても、ケベックへの扱いは非常に慎重なものでした。カナダ政府は酪農家を保護するため、製品価格を下支えする「供給管理制度」を設けています。それに対して、トランプ大統領は同制度を攻撃し、カナダ市場で米産乳製品の販売拡大を迫っているのです。
TPPでも同じ問題が焦点になりましたが、文化に関してはサイドレターでなんとなくうやむやにし、事なきを得ました。
問題は、トランプ政権がそうした小手先の妥協に応じるのかということです。トルドー政権側は、酪農分野では、ある程度の譲歩の姿勢を見せていますが、文化と紛争処理に関してはまったく妥協していません。
トランプ政権の出方が変わらなければ、このまま米加の新NAFTAはご破算になる可能性が高いといえるでしょう。トランプ大統領も、カナダのトルドー首相も「もうすぐ締結」と威勢の良い発言が続いていますが、どちらかが譲歩しなければ、前に進みません。現在追い詰められているトランプ大統領が譲歩に応じるとも思えませんので、交渉はかなり厳しいとみられます。