北載河会議の結論
習近平失脚の可能性はこれまでにも議論してきましたが、失脚にまで至らなくとも、中南海へのグリップは弱くなったと見るべきでしょう。
日経の中澤記者の記事を紹介します。
「 8月前半、河北省の保養地、北戴河で開かれた今後の習近平体制を左右する現役指導者と長老らとの意見交換。その暗闘の一端が透けて見える出来事があった。
「(習近平が共産党トップに就いた2012年の)第18回党大会以来の思想宣伝活動工作の政策決定と執行は完全に正しく、その仕事に従事する多数の幹部らは信頼に値する」
国家主席の習近平(シー・ジンピン)は、8月21、22両日、北京で開かれた全国思想宣伝会議で強調した。一見、何の変哲もなく、見逃されそうな発言である。だが、この一言に夏を跨いだ暗闘の痕跡が隠されている。
大衆の意見を代表するとされる一党独裁下の共産党では、公式に決められた大方針は常に正しいという「無謬(むびゅう)主義」が建前だ。通常、トップが「完全に正しい」などと言う必要はない。それなのに習近平は全国から集めた幹部らを前に「完全に正しい」と言わざるを得なかった。
これこそが「現在の方針に問題がある」、または「規定方針から逸脱し、その通りに実行されていない」という強い異論が存在していた証拠である。
続いて習近平は、異論が噴出していた宣伝手法を進めてきた幹部らに関して「信頼に値する」とわざわざ言及した。これも興味深い。党内に「信頼できない」という意見が存在していたことを示しているのだ。
では、そうした異論はどこから出てくるのか。(中略)
実際の批判、反発の主体の一つは、12年の習近平指導部の発足以来、それを支持してきた「紅二代」「太子党」(革命時代からの高級幹部の子弟)らの一部である。そもそも元副首相、習仲勲の子息である習近平も紅二代の一員だ。かなり複雑な問題である。(中略)
紅二代らはその生い立ちから「改革・開放」政策で中国を豊かにしたかつての最高指導者、鄧小平を最も実績のある指導者だと考えている。その認識は、鄧小平が抜てきした「鄧小平チルドレン」である江沢民、胡錦濤ら長老と共通する。
それなのに昨年から、まださほど実績のない習近平による「新時代」が宣言された。毛沢東はおろか、鄧小平さえいきなり過去の人にされてしまった。新時代に入ってからは、鄧小平ファミリーとの関係で多大な経済的利益を得てきた紅い企業家らも粛正された。習近平は一部とはいえ紅二代、太子党の利益の根源に踏み込んだのだ。」
習近平式の宣伝工作巡る夏の「北戴河暗闘」の痕跡 :日本経済新聞
今回の北載河会議では、王滬寧失脚の話も出ていましたが、失脚には至りませんでした。ただ、墨汁事件のように、それを思わせるだけの事件が起きていたのも確かです。長老たちも最終的には習近平の既存の路線を支持することになったことはこの記事からも判断できますが、習近平サイドが無傷で終わったとは考えにくいのです。そこに何らかの取引があったと見るのが当然でしょう。
そして、その対立相手が鄧小平の一族であったと考えられます。このことは、以前に取りあげています。
北載河会議での取引の内容として想定されるのは、
(1)腐敗撲滅という名目の他の派閥への攻撃をやめさせる。
(2)経済政策を見直す。特に、内需拡大を通じて、経済危機を回避する。
(3)日本を経由して、対米外交を立て直す。
といったところでしょう。ですから日中関係は今後数カ月は改善することになるでしょう。
ただ、懸念されるのは、外貨不足です。中国発の経済危機を回避出来るかどうかが、今後の焦点になることでしょう。