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近づく第二次朝鮮戦争(1)

朝鮮戦争―38度線・破壊と激闘の1000日 (新・歴史群像シリーズ 8)

 当初は、アメリカのブラフではないかと考えてきたのですが、このところの動きを見ると、限定的ではあれアメリカの北朝鮮に対する先制攻撃の可能性も捨てきれない情勢に突入しています。

  ですので、これから数回にわたって英国のシンクタンクによる朝鮮半島の予測を紹介したいと思います。執筆者はMalcolm Chalmers教授。英国の外交安全保障政策の専門家です。2010年と2015年の戦略防衛安全保障レビューの諮問委員の一人で、2011年から英国議会国家安全保障戦略合同委員会の特別顧問を務めています。この経歴からもわかるように、チャルマーズ教授は、英国の外交・安全保障政策に直接関与できる立場の学者です。つまり、この報告書は英国政府が今回の北朝鮮危機をどう見ているのかを,比較的良く反映していると見られるのです。
 今回紹介するのは、Chalmers教授の「Preparing for War in Korea」という論文です。
原文はこちらでご覧ください。

Malcolm Chalmers, "Preparing for War in Korea," RUSI Whitehall Report, 4-17, September 2017

https://rusi.org/sites/default/files/201709_rusi_preparing_for_war_in_korea_chalmers_web.pdf

それでははじめることにしましょう。

朝鮮戦争に備える

 北朝鮮は、核兵器を搭載したミサイルを使用して、米国本土を脅かす能力の点で長足の進歩を遂げた。北朝鮮は既に韓国と日本、さらにはグアムとアラスカをも攻撃する能力を持っている。米国防総省の国防情報部(DIA)は、2018年末までに北朝鮮が「信頼できる核搭載可能なICBM」を生産する計画を進めており、2018年の完成直後から組立ラインでの製造が開始されると推定されている。
 同時に、北朝鮮は、核物質の備蓄、固体燃料エンジン、可動式ミサイル、小型化された弾頭といった信頼性の高い戦略的核兵器に必要な範囲の能力を速やかに進歩させると考えられている。現在、北朝鮮は、ミサイルの軌道の最終段階にかかわる強烈な熱から弾頭を守る能力を検証するために、再突入装置の実験を直ちに実施すると考えられている。6回目の地下核実験が行われたが、放出されたエネルギーは以前の試験よりもはるかに大きかった。このことは、北朝鮮が熱核兵器に向かって順調に進展していること示している。また、北朝鮮は、軍の組織の面でも、ハードウエアの面でも様々な演習を行っている。その一方で、近隣諸国を脅かす北朝鮮の能力は増大し続けている。核弾頭数は、2016年の末の段階で13から30とみられていたが、2020年末には25から60にまで増加するとみられている。そして、2020年代半ばまでには80にまで増えるとされている。
 これに対して、米国政府は、北朝鮮が断念しなければ、一連の明瞭な軍事的行動の脅威を発表することで結束を図ってきた。トランプ大統領は、先制攻撃の可能性を排除していないことを明らかにしている。これまでな用いられたことがなかった「炎と怒り」という言葉で恫喝することに加えて、トランプ大統領は次のように語っている。
 『我々は核を持った狂人をのさばらせておくわけにはいかない。我々には多くの火力がある。金正恩の20倍以上の火力だ。しかし、我々はそれを使用したくはない。私は中国がこの問題を解決してくれることを期待する。しかし、中国が解決しないのならば、我々がするまでだ』
 この問題に関しては、大統領のレトリックは、政府の主要閣僚や軍幹部の声明と徐々に一致するようになっている。たとえば、7月22日には、ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長はアスペン安全保障会議で次のように述べている。
 『朝鮮戦争は恐ろしいものになるだろう。そして我々がこれまで経験したことがないほどの人命が失われることになるだろう。私が言いたいのは、朝鮮半島で紛争が発生すれば、第二次大戦以来一度も経験がないほどの人命が失われるであろうということだ。
 私が友人、敵の双方の同僚に語ってきたように、北朝鮮の核の能力に対応する軍事的オプションは、想像不可能なものではない。私にとって想像できないのは、核兵器デンバーコロラドに打ち込まれることを許容するということだ。それは、私には到底想像できない。したがって、私の仕事はそうしたことが起きないようにする軍事的オプションを発展させることだ』
 最近のことだが、アメリカの国家安全保障会議NSC)も、9月には徐々に北朝鮮に対する強硬な制裁案に動きつつある。マクマスター安全保障問題担当補佐官は、次のように述べている。金正恩は『核兵器を断念しなければならなくなるだろう。なぜなら、大統領が、アメリカとその市民を脅かす体制を容赦しないとのべているためだ』

[コメント]

 現在の北朝鮮の核ミサイル開発のボトルネックは、RV[再突入体]がまだ完成していない点にあります。しかし、それにも関わらず、北朝鮮は順調に核開発を進めているようです。それが、弾道数の指摘につながっています。2020年半ばまでに弾頭数が80を越えるようならば、アメリカにとっても北朝鮮の核は本格的な脅威になります。

 さらに、トランプ大統領の主張が、他の安全保障関係の閣僚の発言と一致しているという指摘も重要でしょう。逆に言えば、もはや北朝鮮問題はトランプ大統領の手を離れたという風にも読めるからです。

 そして何より重要なことは、「第二次大戦以来一度も経験がないほどの人命が失われる」という指摘です。もし朝鮮半島で有事が勃発すれば、これは現実のものになることはほぼ確実と考えて良いでしょう。