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きしむイスラエルとアメリカの関係

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 バイデン政権が、実際のところ、オバマ政権の焼き直しに過ぎないことは徐々に知られつつありますが、おそらくアメリカとイスラエルの関係もオバマ時代の苦々しい関係に行きつくことでしょう。

 日経新聞より

「米国とイスラエルの関係が大きくこじれた局面で、当時のバイデン米副大統領は公然とワシントン駐在のイスラエル大使にメッセージを出した。「私たちは今も仲間同士だと、『ビビ』にしっかり伝えたほうがいいな」

 米大統領選で勝利を確実にしたバイデン氏はオバマ前政権の副大統領として、緊密な同盟関係にある両国が衝突を繰り返した時期に、「ビビ」の愛称で知られるイスラエルのネタニヤフ首相をユーモラスになだめる役どころで鳴らした。特に緊張が高まったのは、米国がイスラエルの宿敵イランと交渉に入った時期だ。

■ネタニヤフ首相と気兼ねなく会話

「彼はビビとあけすけに話せた」と振り返るのは、対中東交渉にあたったデニス・ロス元大統領特別補佐官だ。事を収めるために何度もバイデン氏が呼びだされていたという。2014年には、「ビビ、言い分には賛成しかねるが、あなたのことは大好きだ」とバイデン氏が笑いを誘う一幕もあった。

歴史的に超党派の強い支持を得ていた米国のイスラエル支援は、オバマ政権時代に試練を迎えた。ネタニヤフ氏と民主党オバマ政権との関係はこじれ、15年にはネタニヤフ氏が米議会での演説でイランとの核問題をめぐる交渉を激しく批判した。一方、トランプ米大統領とは気心が通じる間柄で、トランプ氏はイスラエルの右派に大きな利得をもたらした。

バイデン氏が政権移行の準備に入るなか、2年前にトランプ政権が離脱したイラン核合意に復帰するという構想について専門家は、バイデン氏の38年にわたるネタニヤフ氏との関係を何よりも悪化させるものだと指摘する。

「バイデン氏の立場から中東情勢をみると、安定を脅かし戦争につながる真の危険をはらむ問題はただ一つ、核問題をめぐるイランとの緊張関係だ」と、共和・民主両党の政権で中東問題の交渉官を務めたアーロン・デービッド・ミラー氏は言う。

ロス氏は、イラン核合意への復帰がネタニヤフ氏に政治的な「打撃を与えるのは明白」とする一方で、ゆっくりと注意深く順を追って進んでいけば打撃を和らげられると指摘する。

パレスチナ問題よりイラン問題を優先との見方

バイデン氏はイスラエルとの第2の争点、歴史的に両国関係の最大のとげになっているパレスチナ問題で強く出すぎないようにすることで、関係悪化を防ごうとするかもしれない。ミラー氏はこう指摘する。「イスラエルに圧力をかけられる問題が一つだけであるとするなら、バイデン氏は間違いなく(パレスチナ問題ではなく)イラン問題を選ぶだろう。彼はこの点を意識していると思う。両方の問題でネタニヤフ氏に圧力をかけようとはしないだろう」

トランプ政権はパレスチナ問題でネタニヤフ氏に明確な勝利をもたらした。トランプ氏は、エルサレムイスラエルの首都と認定して米大使館を同地に移転し、広くイスラエル寄りとみなされる和平構想を提示して米外交の数十年来の基本路線を覆した。

19年のイスラエル総選挙前、トランプ氏はゴラン高原に対するイスラエルの主権を認めた。ゴラン高原は1967年の第3次中東戦争イスラエルがシリアから奪い、後に併合したが、国際社会は併合を認めていなかった。ネタニヤフ氏はすぐさま、ユダヤ人入植地にトランプ氏の名を冠して謝意を表した。

バイデン次期政権は、エルサレムからの米大使館移転も、次の4年間に2国家共存による解決を追求する方針も示していない。まだ突破口が開けそうな状況にはないとの見解だ。トランプ氏が仲立ちしたアラブ3カ国のイスラエルとの関係正常化についても、バイデン氏は歓迎して応じる姿勢を示している。

そうであればイスラエルも、トランプ氏の和平構想の撤回や(パレスチナに対する外交的な窓口として機能していた)東エルサレムの米総領事館再開、トランプ政権が閉鎖させたパレスチナ解放機構PLO)ワシントン事務所の再開、パレスチナ支援事業を担う国連機関への資金拠出再開といったバイデン氏の出方に耐えやすくなるかもしれない。

■トランプ氏退場は「ひとつの時代の終わり」

ネタニヤフ氏にとって、トランプ氏がホワイトハウスを去ることはひとつの時代の終わりを意味する」と、オバマ政権で対中東政策を統括したロバート・マリー氏は語る。この4年間はイスラエルの右派の政策が「ほぼ機械的に是認されていた」という。

政敵から内閣の連立相手に変わったガンツ元軍参謀総長と権力を共有する取り決めの一環として、ネタニヤフ氏は2021年、首相の座を明け渡す。だが、予算をめぐる対立で連立政権が崩壊すれば、イスラエルは2年間で4度目の総選挙を迎えるかもしれない。その場合、もうネタニヤフ氏はトランプ氏の強い支援にものを言わせる選挙運動は展開できない。

ネタニヤフ氏はすでに、米国の政権交代について国民を安心させようとしている。同氏は今週、ほぼ40年前から米政治の各勢力に「たゆまぬ働きかけ」を続けてきたと述べ、バイデン氏とは「良好な関係」にあると強調した。マリー氏の見方では、民主党政権への移行とともに、ネタニヤフ氏は米国の否定的な反応を引き起こしたくないと主張することで「最も右寄りの支持層を抑える」ことも可能になる。

だが、過去の民主党の大統領たちは、教えを垂れるかのようなネタニヤフ氏の傲慢さに苦い思いをさせられている。

1996年に当時のクリントン大統領はホワイトハウスでの会談後、信じられないという表情で「どっちが超大国なんだ」と思わずつぶやいた。そのそばにいたミラー氏は、これからバイデン氏もネタニヤフ氏に「いらだたされる」だろうが、イスラエルを愛するシオニストユダヤ国家建設の支持者)を名乗ったことのあるバイデン氏は「緊張をコントロールする」道筋を描き出せると指摘する。

パレスチナは安堵も「奇跡は期待せず」

パレスチナ自治政府の元閣僚で和平協議の交渉官も務めたガッサン・ハティーブ氏は、バイデン氏が当選を確実にしたことでパレスチナ指導部は「安堵」したが「奇跡は期待していない」と話す。

専門家は、バイデン氏がオバマ氏のように大統領就任直後に公然とユダヤ人入植地の建設凍結を求めることはないだろうとみているものの、ネタニヤフ氏側としてもバイデン政権を板挟み状態にするような問題を起こすことは避けるのが賢明であるはずだ。

ランド研究所イスラエル専門家シーラ・エフロン氏は、オバマ政権を境にイスラエルは「民主党の主流派にさえも」目を向けようとしなくなったと指摘する。「そのせいで米議会に味方を見つけるのは難しくなる」

イスラエル側には、民主党でもオバマ氏以外ならどんな指導者でも構わないという受け止め方もある。オバマ前大統領はユダヤサマリア地区でのイスラエルの入植地建設を止めることに全ての威信をかけた」と話すのは、オバマ政権時代に駐米イスラエル大使を務めたマイケル・オレン氏だ。ユダヤサマリアは聖書におけるヨルダン川西岸地区の呼び名だ。

バイデン氏が入植地建設の阻止に威信をかけようとすることはないはずだと、オレン氏はみている。「バイデン氏はイデオローグ(理論的指導者)ではない。これは政策の問題だ。大丈夫、この違いは大きい」」

[FT]バイデン氏 対イスラエル外交の試金石はイラン問題 (写真=ロイター) :日本経済新聞

この記事を読む限りでは、バイデンが大統領になってもイスラエルとの関係は小康状態を保てるはずで、オバマ政権の時のように最悪にはならないはずだという希望的観測で貫かれた記事です。問題は、イラン問題とそれと同時にそれをめぐる湾岸諸国との関係をどう処理するのかという問題には全く意識されていないことです。せっかくトランプ時代にイランの包囲網が完成したのに、その包囲網を維持するのかどうかが全く見えないところがオバマ政権の不確定性であると言えるでしょう