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『海航集団』から見たドイツ銀行問題

 欧州金融大手ドイツ銀行の株価が低迷しています。25日のフランクフルト市場でドイツ銀株は前週末比2%超安い9.23ユーロ近辺まで売られ、2016年9月に付けたユーロ導入後の最安値(8.83ユーロ)が視野に入ったといえます。
 ドイツ銀行の株主といえば、海航集団とカタールのファンドが思いつくのですが、カタールはさておき、海航集団を巡る状況を改めて整理しておきましょう。

 日経新聞からです。
「ドイツ銀の大株主は中国の複合企業、海航集団。QUICK・ファクトセットによれば17年2月に株式保有が明らかとなり、保有株数は一時は2億株以上に達した。現在でも1億5793万株(発行済み株数の7.64%)を保有している。習近平国家主席の盟友である王岐山氏との関係が取り沙汰されたこともある。だが最近は、過剰投資に対する中国政府の締め付けによって資金繰りが悪化しているとされる「問題企業」の1つだ。
 海航集団は現在、資産売却を急ピッチで進めている。5月にはトランプ政権で一時期、広報部長を務めた人物が立ち上げた投資ファンドの買収断念に追い込まれたと伝わった。6月上旬には保有する欧州ホテル大手の株式の売却が明らかになった。
 海航集団はドイツ銀株も既に少しずつ売却している。それが加速するようだと株価低迷は長期化し、欧州経済に悪影響が広がる可能性が出てくる。
 ドイツ銀の総資産は3月末時点で約1兆4800億ユーロ。巨大金融機関の経営不安が世界経済を冷やし、景気悪化が金融不安を招く悪循環は08年のリーマン・ショック前と構図が似通っている。」

ドイツ銀行株、最安値に接近 中国大株主の処分売り警戒 :日本経済新聞

 これを読んだだけでは、ドイツ銀行危うしという気にもなるというものです。しかし、海航集団そのものについて、もうすこし詳しく考察しておく必要があります。
 海航集団は1993年に海南省で設立された海南航空から急成長した複合企業で、米ヒルトンやドイツ銀行など欧米企業の株式を相次ぎ取得しています。しかし、買収資金の大半は銀行などからの借り入れで、昨年6月末の段階で負債総額は7179億元(約12兆円)に達しているとされます。
 海航集団が王岐山系列の企業であることは既に指摘しました。その一方でその経営状態は危機的であるとも伝えられています。

王岐山がわからなければ,中国はわからない - FirstHedge 明日の投資情報

 その海航集団の株価といえば、今年の1月半ばからほとんど変動がありません(爆)。これは、事実上政府の管理下にあると考えて良いでしょう。

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(出典はブルームバーグ
 そのために、海航集団は手持ちの資産を積極的に売却しています。

 2018年3月19日ブルームバーグによれば、

 「中国の複合企業、海航集団(HNAグループ)は、国内各地でオフィルビルやホテルを含む不動産の売却を計画している。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。債務返済に向けた資産処分の新たな取り組みとなる。
 計画が非公開として匿名を条件に語った関係者によれば、上海海航タワー、上海揚子江インターナショナル・エンタープライズ・プラザ(上海揚子江国際企業広場)、ルネサンス海浦東ホテルなどのビルが売却の対象となる。海航が上海と北京で売りに出している9物件の簿価の合計は約140億元(約2340億円)と関係者の1人が語った。」

中国海航集団が国内各地で不動産売却を計画、債務返済で-関係者 - Bloomberg

 また、2018年4月6日ブルームバーグによれば、

 「膨大な債務負担に苦しむ中国の複合企業、海航集団(HNAグループ)は、保有する米ヒルトン・ワールドワイド・ホールディングス株の一部もしくは全てを売却することを目指している。
 海航は当局への5日の届け出でヒルトン株売却の意向を示した。海航の持ち分は26%の8250万株で約65億ドル(約7000億円)相当。
 同日の米株式市場で、ヒルトンの株価は前日比1.3%高の79.04ドルで引けた。ヒルトン広報担当のメグ・ライアン氏は、海航が届け出たのであり、ヒルトンからではないとして、コメントを控えた。」

ヒルトン株も一部または全て売却の意向-債務に苦しむ中国の海航集団 - Bloomberg

 となると、ドイツ銀行の株も売却される可能性が高くなります。そうなれば、世界金融恐慌の勃発は回避出来ません。慌てたのは、メルケル首相です。それが、5月24日から25日にかけての訪中の最大の目的であったといっても差し支えありません。わざとらしく、当局に拘束されている中国の人権派弁護士の妻のところを訪問していますが、これは、中国側も同意したうえでの出来レースであったと断言できます。

 ドイツ銀行問題に関しては、習近平に、お願いもし、恫喝もしたことでしょう。その結果、中国もついに重い腰を上げ、海航集団への本格的な支援に乗り出します。

巨額の債務負担に苦しむ複合企業、海航集団(HNAグループ)の資金調達を支援することで、中国政府の上層部が同意したと、事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。HNAが抱える債務は930億ドル(約10兆2800億円)を超える。

 協議が非公開だとして匿名を条件に語った同関係者らによれば、最高レベルの政府当局者らは最近、HNAが現在流動性の問題を抱えており支援が必要だと判断した。12日に中国人民銀行中央銀行)の高官が、中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)など監督当局3機関、海南省政府、HNAの陳峰・共同会長、同社の最大の債権者と会合を開き、HNAによる今後の債券発行を支援するよう指示したという。

 また関係者らによれば、HNAの状況は政府管理下に置かれた安邦保険集団などとは異なると政府の上級高官らは判断。ただ、どう異なるのかについては明確になっていない。

 政府はHNAに対し、主要事業である旅行事業に注力し、買収を通じた多角化をやめるよう指示したと関係者らは語った。」

巨額債務抱える海航集団、資金調達で中国政府が支援の用意-関係者 - Bloomberg

 したがって、中国の海航集団が大々的にドイツ銀行の株を売り出す可能性は、さしあたり、低くなりました。

 ついでなので、カタールの状況もチェックしておきましょう。

 2018年6月13日ブルームバーグによれば、

シティグループは、バンク・オブ・アメリカ(BofA)が潜在的なリスクから融資引き揚げを決めたドイツ銀行主要株主に対し、すかさず資金を提供した。事情を知る複数の関係者が明らかにした。
 詳細が公表されていないことから匿名で語った関係者によると、シティグループが資金を提供したのはカタール元首相のハマド・ビン・ハリファ・サーニ氏。同氏は自身が保有するドイツ銀行株を担保にBofAから資金を借り入れていたが、過去数週間の同行株下落でローン契約の「解除事由」が発動したとBofAは判断。これに代わってシティがサーニ氏に証券担保ローンで数億ユーロを提供することになった
 市場の落ち込みに際し、銀行は顧客を支えるため融資条件の緩和などで対応することも多い。だがBofAは融資継続への関連リスクや、自らのリスクテーク抑制から撤退を選んだ。この決定はサーニ氏でなくドイツ銀行株に絡むリスクが原因で、BofAは中東での助言業務や融資提供を続けていると、関係者らは述べた。
 シティグループ、BofAの代表者はコメントを控えた。サーニ氏の報道担当者はコメントの要請に応じなかった。ドイツ銀行の株価は今年に入り39%下落している。」

シティグループ、カタールのドイツ銀行主要株主に資金提供 - Bloomberg

 ドイツ銀行の先行きに懸念を覚えたBoAに対し、シティグループが、カタールに手を差し伸べたわけです。カタールドイツ銀行株は担保になっていますので、販売することは不可能でしょう。アメリカの金融界も、ドイツ銀行がきっかけとなってハルマゲドンになることを望んでいないことがわかります。

 とすると、現在のドイツ銀行の株価の下落は、マーケットのセンティメントによるものだと判断できます。ですから、少なくとも現段階でドイツ銀行の破滅が決定したわけではありません

 ですから、今からドイツ銀行株の信用売りや、ドイツ銀行倒産を前提にしたトレードは控えておいた方がよいかもしれません。