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アラバマ補選の勝者と敗者

 12月13日に行われたアラバマ州上院の補選では、民主党ダグ・ジョーンズ候補が勝利を収めました。アラバマ州は、現在のセッションズ司法長官の地盤です。それが、僅差とは言え、敗北したわけですから、トランプ政権始まって以来の政治的混乱といっても良いでしょう。

 火曜日の晩の段階で、ロイ・ムーア候補は、投票結果を認めていません。しかし、投票の数え直しも求めてはいません。
 とはいえ、実質上、ムーア候補周辺は除けば、今回の投票が無事行われたと誰もが信じています。トランプ大統領すらが、ジョーンズ候補に祝辞を送っているほどです。
 さて、今回のアラバマの補選での勝者と敗者は誰だったのでしょうか。

 [勝者]
(1)民主党
 今回の補選の結果は、全米の民主党員にとって青天の霹靂でした。今年初めの下院のの補選では何度も、民主党は敗北してきました。ヒラリーの大統領選での敗北の影響が尾を引いていたのです。
 ですから、今回の補選に関しては民主党員は慎重でした。恐らく、共和党の牙城であるアラバマ州民主党が勝利を収めるということはほとんど現実性がないと考えられていたためでしょう。
 しかし、ジョーンズ候補は勝利を収めました。アラバマ州で、1986年以来始めて民主党上院議員が誕生したのです。その結果は、2018年の中間選挙にも大きな影響を与えることでしょう。
 たとえムーア候補に大きな欠点があったとしても、共和党は政局の風向きが変わっていることに否が応でも敏感にならざるを得ないでしょう。

(2)黒人
 アフリカ系アメリカ人有権者が、ジョーンズ候補の勝利の鍵でした。
 民主党は,アラバマ州の黒人地区で強い支持を得ていました。黒人の有権者は全投票の29%を占めていました。彼らは、2012年の大統領選で,オバマ大統領を選出する原動力となりました。
 民主党ジョン・ルイス下院議員、同じく民主党のコーリー・ブッカー上院議員が、黒人層の支持固めに貢献しました。また、元NBAのスター選手のチャールズ・バークリー等も協力に回りました。
 ジョーンズ候補の経歴は、黒人層に支持されるものでした。2001年から2002年にかけて、ジョーンズは、1963年のバーミンガムでの教会爆破事件で、4名の少女が殺害された事件に関して2名のKKKのメンバーを告訴しました。
 しかし、多くのアフリカ系アメリカ人ジョーンズ候補を支持したのは、ムーア候補とトランプ大統領に対する反発が大きかったためでした。
 今回の補選での黒人票の決定的な役割は、アイデンティティー政治に焦点を当てすぎていると非難する民主党内での勢力に打撃になります。
 ジョーンズ候補は黒人有権者に、勝利宣言の際に感謝を述べています。そして、アラバマ州の苦悩に満ちた黒人の歴史に言及しました。
 「我々は間違った人間を選んできました」「今晩、紳士淑女の皆さん、あなたは正しい道を選択したのです」

(3)ロイ・ムーアの批判者、レイ・コフマン、ベバリー・ヤング・ニールセンなど 
 共和党候補をいじめとセクハラで告発した女性は,政治的に利益を得ようとしていたと言うよりは、根深く個人的な動機に動かされていたことは明らかでした。
 たとえそうであったとしても、ムーア候補が、彼らの主張にも関わらず上院議委員に当選していれば、彼らにとって大きなトラウマになったことでしょう。
 これは、いわば復讐劇だったのです。

(4)上院院内総務ミッチ・マコーネル、リチャード・シェルビー上院議員
 マコーネルは、ムーア候補よりも、前任者のルーサー・ストレンジを推していました。共和党多数派は、ムーア候補が正式の共和党候補に決定した後でも、彼に対する嫌悪感を隠そうとしませんでした。
 マコーネルの同僚は、ムーア候補を、草の根の保守派にしかアピールしない最も選んではいけない候補であると物語っていました。彼らは、上院選で敗北したデラウエアのクリスティン・オドネルやミズーリのトッド・エイキンの名前を挙げていました。
 シェルビー上院議員は、選挙期間中であった先週、CNNに他の共和党候補の名前を挙げていました。彼はムーア候補には投票できないと考えていたのです。これは、政治的にはリスクでしたが、最終的にはうまくいきました。

(5)コーリー・ガードナーと共和党全国上院委員会
 ある段階で、共和党全国委員会と,上院議員選挙の運営団体である共和党全国上院委員会は、セクハラの容疑がかけられているので、ムーア候補を支持しないと語っていました。
 共和党全国委員会は,トランプ大統領がムーア候補の支持を明らかにしたために、態度を変更しました。しかし、ガードナーは、自らが主宰する共和党全国上院委員会は、それには従わないと述べていました。
 ガードナーは、ウイークリー・スタンダード誌に、彼のグループは絶対にムーア候補を支持しない。「私はそんなことをさせない」と語っていました。
 現在、それは懸命な判断であったように見えます。

(6)コーリー・ブッカー上院議員
 ブッカー上院議員は、選挙戦終了間際にアラバマ州を訪れました。ジョーンズ候補支援と、アラバマ州と自分の家族の絆似光を当てるためでした。
 ブッカーの影響力が選挙戦で有効であったとは言えないでしょう。しかし、彼の訪問がブッカー上院議員の名声を高め、歴史的な民主党の勝利で連想される人物となりました。
 これは、彼にとって妨げにならないでしょう。というのも、2020年の選挙戦は既に始まっているためです。

(7)ニューヨークタイムズ
 選挙当日の晩、タイムズ紙の選挙予測がソーシャルメディアのコメントで焦点となりました。2016年の大統領選では、クリントン候補優勢からいきなりトランプ候補優勢に変化したので,リベラル勢力の顰蹙を買っていました。
 しかし、今回はジョーンズ候補の勝利を予測して降り、それは正確だったのです。

 

[敗者]
(1)トランプ大統領
 火曜日はトランプ大統領にとって最悪の日でした。アラバマ州選挙への関与が裏目に出たためです。
 トランプ大統領は、当初,9月の予備選で、ムーア候補よりもストレンジ候補を支持するように求められていました。しかし、それはトランプ大統領の本能に反していました。
 彼は熟慮の末、ムーア候補を支持しました。しかし、選挙が終盤に近づくにつれて、人種問題の比重が大きくなりました。
 彼は、ツイッターアラバマ州有権者ジョーンズ候補に投票しないように訴えかけました。ムーア候補を貶めることをもくてきとした、ロボコールを公開し、先週の金曜日には、フロリダ州のペンサコーラで選挙運動を行いました。
 ムーア候補の敗北は、彼がクリントン候補に対して30%差で勝利した州での敗北であり、大きな打撃となりました。
 この結果は、共和党議員がトランプ大統領から一層距離を取るきっかけになるでしょう。共和党議員も自分の将来を守らなければならないからです。

(2)スティーブ・バノン
 バノンは、ムーア候補を全面的に支援していました。ブライトバートもしばしばムーア候補の支援に回っていました。
 今回の結果、反バノンの声がワシントンの共和党の中で聞かれるようになりました。ホワイトハウスの元主任戦略官は、自らの戦略上の技術を誇張して、選んではいけない候補を選んだのではないかというのです。
 結果が明らかになる前、マコーネル上院議員の元スタッフであるジョシュ・ホームズが、「共和党が優勢な州で敗北する方法を教えてくれて」ありがとうとツイートしています。
 喧嘩が好きなバノンの戦いは続くでしょう。彼はいまだにトランプ大統領とは親密な関係にあります。しかし、今回は大きな敗北でした。

(3)共和党全国委員会
 共和党全国委員会は、選挙戦後半で、ムーア候補支持に回りました。このことが、ムーア候補にとってとりわけ大きなダメージになりました。
 トランプ大統領が支持に回ったのだから、ムーア候補を支持するしか他に手段はなかったと共和党全国委員会の支持者は述べています。
 しかし、当初、子供へのセクハラが噂されている人物を支持せずに、後で支持に回るというのは、いかにもまずい方法でした。これは失敗としか言いようがありません。

(4)共和党の政策
 民主党ジョーンズ候補が上院議員になれば、上院における共和党の優位は一層脅かされることになります。共和党は,今後100議席中、51議席しか維持できないことになります。
 共和党の税制改革案は,今回の選挙の結果の影響は被らないでしょう。というのも、マコーネル上院院内総務が,アラバマ州の芯上院議員が就任する今年の終わりまでに、税制改革の法案を通すとしているためです。
 しかし、それ以降の議案は,共和党にとっては非常に困難になります。

(5)宗教右翼
 福音主義派は、アラバマ州でも、それ以外の地域でも,ムーア候補を支持していました。
 ビリー・グラハムの息子のフランクリン・グラハムは、選挙の当日に「ロイ・ムーアのために祈りましょう」とツイートしていました。
 しかし、宗教保守派の力は、ムーア候補を当選させることは出来ませんでした。つまり、保守が優勢な州でも、宗教右翼だけの力では当選を保証できないことを明らかにしたと言えます。