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いずれ壁は崩れる 第二次朝鮮戦争の被害想定

 以前、スティーブ・バノンが「北朝鮮での戦争は忘れてくれ」と述べていましたが、徐々に第二次朝鮮戦争の見積もりが公表されるようになってきました。その見通しは限りなく暗いものです。今回紹介するのはブルームバーグが報じている米議会調査局の報告書の概要をお伝えしましょう。

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(写真はウィキペディアより)

  「米議会調査局による新たな報告書によれば、第二次朝鮮戦争の結果、核兵器が用いられなかったとしても、開戦後最初の数日だけで、数十万が死亡する可能性があるとのことです。
 朝鮮半島の人口密度を考慮するならば、「軍事紛争は停戦ライン沿いで2500万以上もの人口に影響を与える可能性がある」と62ページからなる報告書には記載されています。この報告書は米国の議員に金曜日に送付されました。

1.議会調査局の予想
 金正恩体制が核ミサイル開発を加速させ、トランプ大統領と金正恩の言葉での争いが激化し、米朝の緊張が高まる中で、この報告書が提示されたのです。ジム・マティス国防長官は北朝鮮と韓国の非武装地帯に足を運びました。そこで、アメリカは危機を解決するための最善の策として外交を追求し続けると述べました。
 しかし、アメリカはあらゆる軍事オプションがテーブル上にあるとは述べていますが、議会調査局の報告書は紛争の帰結の予想を詳細に伝えています。北朝鮮は、ソウルを射程に含む数万の火砲を利用することが出来ます。そのために、大量虐殺を予防するための先制攻撃は一層困難になっています
 報告書によれば「北朝鮮が通常兵器を使用するだけで、戦闘初日に3万から30万が死亡すると予測される」とのことです。そして、北朝鮮には1分間に1万発の砲撃能力があることを示しています。さらに、紛争は急速に拡大し、中国軍、日本軍、ロシア軍も関与することになるとしています。
 「こうした紛争は米軍の朝鮮半島への大規模な動員と、高い殺傷率につながる可能性があります」と報告書は伝えています。「事態を複雑にする要因としては、中国がこの紛争に参加するのかどうかということです。万一参加すれば、殺傷率は急速に増大します。そして、潜在的朝鮮半島を越えて紛争が拡大する可能性があります」
 それでも、報告書によれば、金正恩の体制が米国本土を攻撃する核弾道を搭載可能なミサイルを開発する能力を手に入れることは、地域戦争の勃発以上の危険があると主張するアナリストもいるとのことです。
 トランプ大統領は、来週、アジア歴訪の一環として韓国を訪問する予定です。

2.バノンの警告
 トランプ大統領の顧問を務めていたスティーブ・バノンは、8月に米軍の軍事攻撃がもたらす危険に注意を喚起していました。彼はアメリカン・プロスペクト誌とのインタビューで,アメリカの先制攻撃に関して質問されると「最初の30分の間に通常兵器による攻撃で1000万人が死亡するという予測を誰かが解決できるまで、あなたが何を言っているのかわかりません。軍事解決はあり得ません。彼らが我々を打ち負かすのです」と答えています。
 議会調査局の報告書はバノンほどではありません。しかし、議会報告書の評価は、議員に「火と怒り」で北朝鮮を先制攻撃した場合紛争がどうなるのか、その暗い見通しをしめすことになりました。
 「北朝鮮が米国領土に挑発ではない(本気の)攻撃を行うと信じているアナリストはほとんどいません。」しかし、この危機が拡大し続ければ「議会は、この地域における米国の政策を立案する際にアメリカの役割を検討するという重大な問題に直面する可能性があります」と報告書も述べています。
 それと同時に、アメリカの制裁、外交、武力誇示は、「北朝鮮大量破壊兵器の開発を遅らせることはあっても停止さえることはない」と報告書は伝えています。
 来年には北朝鮮がアメリカを攻撃することが出来る大陸間弾道弾の技術を完成させるという情報機関並びに軍情報部の見解によってトランプ政権が直面している圧力が強まっていることを、今回の評価は認めています。

3.対話の緊急性
 「この評価が意味しているのは、米国の領土に対する北朝鮮の核攻撃の危険を冒さずに軍事行動を取るための時間の猶予が狭まっているということ」であり、「多国間の外交努力を再開することが緊急に必要になっている」ことだと報告書は述べています。北朝鮮と中国が米軍による攻撃が「間近に迫っている」と信じるようになれば、交渉に向けた動きは強化され,加速するだろうと報告書は述べています。
 ホワイトハウスジョン・ケリー主席補佐官は、10月12日の記者会見で同様の見解を述べています。北朝鮮ICBMの脅威を引用し、「現段階では,脅威は管理可能だと我々は考えている。しかし、事態が現状よりも進展すれば・・・、外交が機能することに期待しよう」とジョン・ケリーは述べました。
 ティラーソン国務長官も「最初の爆弾が落ちるまで」外交努力を継続すると述べています。
 議会調査局の報告書は、米朝間の戦争がより幅広い紛争に転化する可能性を提示しています。
 紛争が長期化した場合、特に北朝鮮核兵器生物兵器化学兵器を使用した場合、膨大な死傷者が生まれるでしょう。そして、それは日本や米国の領土にまで広がります」と議会報告書は述べています。「このような紛争は、朝鮮半島への膨大な動員につながる可能性があります。そして致死率も上昇するでしょう」

4.中国との衝突
 アメリカは、1950年から53年までの朝鮮戦争の時のように「中国との直接的軍事衝突の危険も冒す」ことになります。報告書は、中国の対応が「今回の軍事紛争から発生する恐らく最も重大な地政学的問題」と呼んでいます。
 アメリカの先制攻撃は「中国との関係で大きな断絶をもたらす」可能性があると報告書は述べています。しかし、中国はアメリカの最大の貿易相手国であり、1兆1千5百億ドルもの米国債を保持しています。トランプ政権は、北朝鮮の各計画を停止させるために、中国に圧力をかけ、北朝鮮との交易を停止させるようにもとめています。
 朝鮮半島の戦争による膨大な死傷者数に加えて、議会調査局の報告書は、戦争が「北朝鮮系住民が多数居住する中国東北部への難民の流入につながる可能性がある」と述べています。

Korea War Seen Killing Up to 300,000 Even Without Nukes - Bloomberg

  実は他にも第二次朝鮮戦争の予測はあるのですが、やはり、限定攻撃でも全面戦争につながる可能性が指摘されており、しかも、短期で終わる可能性が低いようなのです。

 逆に言えば、北朝鮮に対する限定攻撃が可能になるのは、中国との調整の後ということになるでしょう。その際には米中の共同作戦という形になるかも知れません。おそらくは、それが一番被害が少なくなる選択だと考えられます。