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台頭するインド経済の落とし穴?

なぜ、男子は突然、草食化したのか 統計データが解き明かす日本の変化

 微妙にインド経済をディスるNYTimesが微妙に香ばしかったりしますね。

 「 インドのナレンドラ・モディ首相は先週、彼の市場志向の経済政策に対する支持を背景に再選を勝ち取った。しかし、それでもインドでは政権第一期でどれだけ経済成長を遂げたのか、失業が発生したかについて賛成できるものはほとんどいないだろう。
 インド政府の公式データによると、2014年の就任以来、年間7〜8%の経済成長が見られ、中国に匹敵する、あるいはそれを上回ったことが示されている。しかし、モディ政権下で、インドの統計処理の変更、特に失業率の上下に関して、政治介入とデータ品質に関する疑問が生まれている。
 昨年初めに新たな全国雇用調査が発表される予定になっており、それによって、経済成長が再評価されることになっていたが、繰り返し延期され、1月に政府上級統計専門家2名が辞任した。一部のデータはインドの新聞であるビジネススタンダードに漏えいしており、失業率は6.1%で、これまでの報告の2倍を超えている。 2011年から2016年までの労働省の調査では失業率は3%を下回っていた。
 問題は、誰のデータが信頼できるのかということだ。
 特に学界の経済学者の中には、政府の統計に深く疑いを抱いているものもいる。ニューデリーのジャワハルラールネルー大学のエコノミスト、ジャヤティゴッシュ氏は、「彼らはこのデータ収集プロセス全体を政治化している」と述べた。 「誰も数字をもう信じない」

 議論の中心となっているのは、実際の政治とはほとんど関係ない統計方法の変更である。この変更は、モディ氏の前任者、当時のマンモハン・シン首相によって承認されたものであった。さらに、国連や国際通貨基金などの多国間機関も、統計方法の変更を近代化として強く支持していた。
 何十年もの間、インドは簡単なアプローチを採用してきた。政府は生産されている様々な商品とサービスの量を計算した。それは広範なサンプル調査であり、その後で、政府はこれらの商品とサービスの見積価格を使用して、経済成長を計算した。
 米国を含む世界中の国々はかつてこのアプローチを採用していたが、先進国では過去数十年間でそのアプローチはほとんど放棄された。しかし、この方法で作成された成長統計は、見積価格に大きく依存する。たとえば、自動車の台数を数えているのであれば、より高級なエンジンや革のシートを追加したときに製造業者が自社の自動車に対してより多くの料金を請求することによって付加される経済成長を見逃す可能性がある。
 インドが採用した新しい方法は、政府に報告された財務データに依存している。インドで設立された90万社の財務結果は、国の経済活動全体を評価するために使用されている。インドはこの方法を採用した最初の途上国の1つである。
 しかし、インドには中小企業がたくさんあり、過去数年までは、ほとんどが現金で運営されていた。農業を含むこのいわゆるインフォーマル経済は、インドの経済生産高の半分近くを占めている。新しい統計的方法は、非公式経済が法人企業と並行して上下すると仮定している。
 2016年に引退する前にインドの経済統計と新制度の導入を監督した元公務員プロナブ・センは、ほとんどの場合、それは公正な仮定であると述べた。しかし、中小企業は、モディ政権の大きな構造変化に対応出来なかった彼は述べた。
コーポレート・インディア(インドの法人企業)は非常に順調だ」と、セン氏はニューデリー南西部の自宅でのインタビューで語った。「経済の約45%を占めるインドの個人運営の企業はそうではない
 モディ氏は、2016年11月にその国の大きな額面の紙幣を突然廃止した。大企業は、取引を容易にするために、クレジットカードまたは銀行の電信送金を使用するように顧客に依頼することで対応できた。現金に頼っている中小企業は何か月もの深刻な混乱を被った。
 7か月後の2017年夏、課税所得の監視を強化するために、単一の付加価値税が導入された。新しい税金は、錯綜とした17の州税と国税に取って代わるもので、企業と徴税人との間の広範な贈収賄を大幅に削減することになった。大企業は、この変化と政府のバグの多いソフトウェアに対処するために専門家を雇う余裕があった。中小企業は、調整するのに苦労し、そしてまだ苦労している
 政府の経済統計では、中小企業と大企業が改革の影響を受ける程度の相違は測定されていない。モディ首相のキャンペーンは、部分的とはいえビジネスを赤字から解放する努力を実行するものであったが、過去二年の間、非公式部門の健全性の重要な指標である失業に関するデータを提供しなかった
 インドのデータをめぐる論争は、波紋を呼んでいる。その中には、モディ政府が悪いニュースを黙らせていると主張した3月に書簡に署名した108人の経済学者および社会科学者からの苦情も含まれている。「事実、政府の達成に疑問を投げかけている統計は、疑わしいイデオロギーに基づいて改訂または抑制されているようだ」とその公開書簡は主張している。
 モディ氏の経済政策委員会は、失業率調査データ(未発表のまま)にはさらに見直す必要があると主張した。同委員会の最高責任者でモディ氏の右腕トの一人であるアミタブ・カント氏は、インタビューで「インドは多くの雇用を創出しているが、インドは質の高い雇用を創出していない」と述べた。
 ビジネススタンダード紙の説明が示すように、失業が倍増したかもしれないというニュース報道が論争をさらにかき立てた。モディ首相周辺の一部のビジネス関係者は、失業の記録方法にも疑問の眼をむけている。
 「我々は愚かにも雇用の神話を追求しているのかも知れない」こう述べるのは、ムンバイの会計士であり、16社の取締役を務めるファイナンス会社であるサイレシュ・ハリブハティ氏である。「世界は、以前は人々を9時から5時まで勤めさせ、毎月の給料を支払っていたが、それから進歩を遂げた」
 退職した公務員のセン氏は、ウーバーの運転手のように、個々の仕事に対して直接支払われる労働者は適切に数えられていると考えていると述べた。 同氏によると、失業の急増が報告された最も可能性の高い説明は、多くの中小企業がまだ2年前の通貨の見直しから回復途上にあるということだ。
 それでは、現在の経済成長率はどの程度なのだろうか?セン氏は、推測を危険にさらすことすらないと述べた。」

Yes, India’s Economy Is Growing, but Can You Trust the Data? - The New York Times

 たしかに、インドにおける非公式経済というか個人企業は、統計上把握仕切れていない可能性は高そうです。またモディ首相の片腕の発言にもあるように、雇用の質が高くないかも知れないというのは、インド経済の盲点なのかも知れません。

 しかし、中国に見切りをつけた企業の投資が当分続き、中国のような政治的トラブルは考えにくいという環境を考えれば、インド経済はまだ当分成長すると考えられます。ですから、今回取りあげられている統計問題も、深刻といえば深刻ですが、気楽に考えれば、本質的な問題ではないといえます。

 むしろ高額紙幣の廃止により、政府が脱税や収賄を把握するのが以前より容易になっていることを考えれば、いずれこの混乱も治まると考えられます。