FirstHedge 明日の投資情報

投資を搦め手で分析します。

チャイナクラッシュを準備する米中通商協議

海上権力史論

3月1日のデッドラインを前にして米中通商協議が大詰めです。果たしてまとまるのでしょうか。

  障害になっているのは、中国の国営企業に対する補助金です。
 「今週北京で行われている米中通商協議に詳しい関係筋3人によると、中国は市場を歪めている国内産業への補助金制度をやめる方針を表明したものの、その手段について詳細を提示していないという。
 中国はすべての補助金制度を世界貿易機関WTO)規則に準拠させると約束したが、米国側は中国が補助金制度について開示していないことなどから懐疑的な見方を示しているという。
 関係筋の1人は、中国は2001年にWTOに加盟して以来、国の補助金に関する報告義務を履行していないと指摘。「中国はこれを真剣に受け止めることを申し出た」と述べ、WTO規則を順守する約束について言及した。
 米国側の交渉担当者らはまだ納得していないという。
 同関係筋は「中国は自国の制度を変えることなく『米国が提起した補助金や産業政策に関する問題に対処している』と訴える手段を模索している」と指摘した。
 別の関係筋は、補助金WTO規則に準拠させるという中国の大まかな約束は協議による1つの実行可能な成果だとした上で、中国はすべての補助金の記録を付けていないため、完全なリストを公開することで合意する可能性は低いとの見方を示した。
 もう1人の関係筋によると、今週行われてきた協議は、米国が中国に求める構造改革の問題で難航している。米国側は補助金の抑制に加え、技術移転の強要や米企業秘密の窃盗をやめるよう求めている
 米通商代表部(USTR)および米財務省の報道官からのコメントは得られていない。中国商務省のコメントも得られていない。」

中国、補助金やめる方針表明 具体策は示さず=通商協議関係筋 | ロイター

 焦点になっているのは、中国の国営企業に対する補助金です。しかし、そのリストは存在しない(笑)ので、何とかこの問題はスルーしたいと中国側は考えているわけです。

 これまでは、それで通じたのかもしれませんが、今後は国営企業に対する補助金は厳密にカウントされることになるでしょう。となれば、国営企業に対する補助金景気対策という従来の手法が今後は用いることができないといえそうです。

 さらに、国営企業をめぐってはもう一つの重要な問題があります。すなわち、それぞれの国営企業債務危機です。

「 グローバル金融危機を受けた中国の景気減速は、政策の不手際が原因だった──。ピーターソン国際戦略研究所のニコラス・ラ―ディー氏は新刊「ステート・ストライクス・バック(国有企業の逆襲):中国の経済改革は終わったのか」の中でそう分析している。
 中国の成長率は金融危機前の4年間に年平均12%だったが、2015年以降は7%弱に落ち込んだ。ただ、減速には避けようがない面もあった。ラ―ディー氏によると、元安や高い貯蓄率、巨額の貿易黒字で加速した成長が、より持続可能な水準に戻ったことで、減速の半分は説明がつく。
 この著作の核心は「回避可能だった」残り半分を解き明かしている点にあり、その大部分が国有企業の復活だ。
 ラ―ディー氏によると、企業向け融資全体に占める国有企業の比率は2011年に28%だったが16年には80%余りに上昇。一方で民間企業向けの比率は半分強からわずか11%に低下した
 要するに資源の配分ミスが起きたのだ。
 国有企業のROA(総資産利益率)は民間企業に劣っており、そのギャップは金融危機以降に広がった。ラ―ディー氏の試算によると、国有企業の経営効率が民間企業並みであれば、中国の2007─15年の平均年間成長率は最大で2%ポイント押し上げられていたはずだという。
 さらに事態を悪化させたのは国有企業の負債の増加で、企業の借り入れの対国内総生産(GDP)比は2009年には120%前後だったが16年には170%近くに上昇した。国有企業の復活は企業幹部の間で信頼感の低下も招き、民間投資が落ち込んだ。

 ラ―ディー氏の著作には明るいメッセージも含まれている。
 発展途上国では通常、先進国並みを目指す急成長がいずれ勢いを失うものだが、中国はまだその段階に近づいていない、というのだ。日本や韓国、台湾、シンガポールはいずれも、1人当たりGDPで見て今の中国と同じ発展段階を踏み、さらに成長を続けた。
 ラ―ディー氏によると、仮に中国政府が改革を再開すればさらに20年間にわたり8%以上の成長を続けることが可能だという。
 この著作で最も考えさせられる部分は、何が起きたかということだけでなく、その理由を解明しようと試みて今後の改革の見通しにつなげている点だ。
 ラ―ディー氏に言わせれば、根本的な障害は、「国有企業は成長の足を引っ張っているかもしれないが、共産党の立場や支配を維持するのには不可欠だ」という最高指導部の考え方にある
 つまり、中国の政治システムには、大胆な改革が不可能ではないとしても、その実行を困難とするような仕組みが内包しているのではないかという問題提起だ。これは、盛んに議論の対象となっている「民主主義と富」というテーマにもつながる。
 一握りの小国を除けば独裁体制国家が富裕国に仲間入りした例はない。中国はこの法則をひっくり返しそうに見えたが、やはりだめなのだろうか。(以下略)」

コラム:中国経済の大幅減速、犯人は国有企業の「逆襲」か | ロイター

 2016年前後の不景気を救ったのは、国有企業への大規模な融資であったことが示されています。今回は、アメリカの要求もあり、それが不可能になりつつあるのです。

 つまり、チャイナクラッシュは、今回の米朝協議で準備されているというべきなのです。