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敵はトルコ アサド政権の国際社会への復帰

「アラブの春」とは一体何であったのか 大使のチュニジア革命回顧録

 「アラブの春」は、10年単位の計画と資金を投じて実施された壮大なプロジェクトでしたが、最終的にアサド政権を打倒することはできず、ヨーロッパを含めた周辺各国に難民を流出させただけだったということになりそうです。

 いくら壮大な計画であっても、失敗に終わると、目も当てられません。

その意味で、今回紹介するAFPの記事は一読の価値があります。 

「 サウジアラビアなどアラブ3か国とイスラエルが、シリアをアラブ連盟(Arab League)に復帰させる計画を水面下で進めていることが、ミドルイースト・アイ(MEE)の取材で明らかになった。シリアはバッシャール・アサドBashar al-Assad)政権が反体制派を弾圧したことなどから、2011年11月以来、アラブ連盟の参加資格を停止されているが、4か国は昨年末に開いた情報当局の秘密会合で、停止の解除に向けた外交努力を進めることで合意した。内戦で優位を固めたアサド政権との関係を修復し、域内でのトルコとイランの影響力をそぐ狙いがある。
 複数の湾岸関係筋によると、秘密会合は昨年12月に湾岸某国の首都で開かれ、サウジアラビアアラブ首長国連邦UAE)、エジプト、イスラエル4か国の情報機関幹部が集まったイスラエルの対外特務機関、モサド(Mossad)のヨッシ・コーヘン(Yossi Cohen)長官も出席した
 会合では、4カ国にとって域内最大の軍事的ライバルはイランではなくむしろトルコだとの認識でも一致。その上で、トルコの影響力に対抗する案について話し合ったという。
 イスラエル側はその席で、イランは軍事的に封じ込めることができるが、トルコははるかに大きな力を持っているとの見方を示した。コーヘン長官はこう言ったとされる。「イランの力はもろい。トルコの脅威こそ本物だ」
 この会合が開かれた背景には、もう一つ事情があった。昨年10月、米国を拠点に活動していたサウジアラビア人ジャーナリスト、ジャマル・カショギ(Jamal Khashoggi)氏が、トルコのイスタンブールにあるサウジアラビア総領事館内で殺害された事件を受けて、ドナルド・トランプDonald Trump)米政権とサウジアラビア政府の関係が冷え込んだことだ。
 米中央情報局(CIA)や米議会はカショギ氏の殺害について、サウジアラビアムハンマド・ビン・サルマン(Mohammed bin Salman)皇太子に責任があると断じている。しかし、トランプ氏はムハンマド皇太子の責任を追及しない考えを公にした。
 4カ国の情報当局の会合では「トランプはできるだけのことをやった。あれが限界だ」という発言もあったという。
 こうした問題に対処すべく、秘密会合では次の4つの方策を取ることを申し合わせた。
 第1の方策は、トランプ大統領が取り組んでいるアフガニスタンからの米軍撤収を後押しすることだ。アフガニスタンには今も、旧支配勢力タリバン(Taliban)や他の武装組織との戦いで政府の治安部隊を支援するため、1万4000人規模の米軍が駐留している。
 実際、秘密会合の翌週には、UAEアブダビ(Abu Dhabi)で米当局とタリバン代表団の和平協議が行われている。両者の協議にはサウジアラビアUAEパキスタンの当局者も関わっている。
 第2の方策は、イラクで「スンニ派(Sunni)カード」を掌握することだ。これは、イラク連邦議会におけるイスラムスンニ派の最大会派に対するトルコの影響力を最小限に抑え込むことを意味する。
 モハメド・ハルブシ(Mohammed al-Halbousi)議長に対しては、昨年12月17日、サウジアラビアの首都リヤドを初めて公式訪問した際に圧力が掛けられた。サウジアラビアの元駐イラク大使が、スンニ派最大会派に対するトルコの影響力を減らすか、一掃するかの二者択一を議長に迫ったのだ。ハルブシ議長はその後、教育相候補の指名を妨害し、会派内に動揺が広がった。
 第3の方策は、サウジアラビアUAE、エジプトの3か国とシリアのアサド大統領との完全な外交関係を復活させるための外交努力だ。アサド大統領は8年近くに及ぶ内戦で、イランの軍事支援と、イランの支援を受けるレバノンイスラムシーア派(Shiite)原理主義組織ヒズボラ(Hezbollah)の戦闘員に大きく頼っている。秘密会合では、アサド大統領に伝えたいメッセージについても話し合ったという。
 その内容について説明を受けたという湾岸某国の当局者はこう語る。「彼らもアサド氏がイランとの関係を断つことまでは期待していないが、アサド氏にはイランに利用されるのではなく、イランを利用してほしいと思っている」
 合意を裏づけるように、会合後、関係国の要人によるシリア訪問が相次いだ。昨年12月16日には、スーダンのオマル・ハッサン・アハメド・バシル(Omar Hassan Ahmed al-Bashir)大統領が、シリア内戦が始まった2011年以降、アラブ系の国の首脳として初めてシリアを公式訪問した。シリア専門家のカマル・アラム(Kamal Alam)氏は、サウジアラビア政府の同意がなければあり得ない訪問だと指摘している。
 UAEからも、情報機関のアリ・シャムシ(Ali al-Shamsi)副長官が1週間の日程でダマスカスを訪問UAEは同月27日、8年ぶりに在シリア大使館の再開を発表した。サウジアラビアUAEと緊密に連携しているバーレーンも追随し、同日中にシリアとの外交関係を復活させている。
 一方、その3日前にはシリア側から、アサド大統領の安全保障担当特別顧問を務めるアリ・マムルーク(Ali Mamlouk)氏が、異例のカイロ訪問を行った。消息筋は、両国間の関係正常化が近く発表される見通しだと語った。
 消息筋によると、エジプトはシリア政府に対して、主要な敵はトルコ、そしてサウジアラビアやエジプトなどが断交しているカタール、さらにイスラム主義組織「ムスリム同胞団(Muslim Brotherhood)」であると宣言することを望んでいる。
 アサド政権への「アメ」としては、シリアのアラブ連盟復帰への道筋をつけることに加えて、シリア北部におけるトルコの軍事プレゼンスに反対するシリア政府の立場を、アラブ諸国が支持することなどが挙げられる。シリア北部には、クルド人民兵組織「クルド人民防衛部隊(YPG)」に対抗するためトルコ軍が展開している。
 報道によるとアルジェリアは、3月にチュニジアで開かれるアラブ連盟首脳会議に、アサド大統領を招くことに関心を持っているという。
 秘密会合で合意された第4の方策は、トルコとシリア北東部のクルド人勢力との対立で、クルド人勢力側を支援することだ。トルコは、シリア北東部の対トルコ国境から対イラク国境に至る一帯で、YPGとその政治部門「民主統一党(PYD)」の駆逐を目指している。
 会合ではこの他、イラク北部のクルド自治政府との関係を強化することや、クルド自治区が2007年に独立の是非を問う住民投票を強行して以降、ぎくしゃくしている同地地区とトルコの関係修復を阻止することなどでも一致した。
 前出の湾岸某国の当局者はこう明かす。「サウジアラビアは、アサド氏の歓心を買おうとする外交攻勢で自ら先頭に立ちたくはない。しかし、アサド氏をてこにして、トルコの勢力を弱めるという基本戦略については同意している
 イスラエルはこれまでアサド大統領と直接の接触はしていないものの、アサド一族が属するシーア派の一派アラウィ派(Alawite)やキリスト教徒のシリア人実業家を仲介者として活用してきた。アラウィ派やキリスト教徒の実業家は、UAEとシリアの関係修復にも一役買っている。
 UAEが在シリア大使館の再開を発表した昨年12月27日、イスラエルは、イランからヒズボラへの武器輸送を標的にしたとみられる一連の空爆を実施した。これは、イスラエルがアサド大統領に送った「イランに依存するな」というメッセージだった。」

アラブ諸国、アサド政権に接近 地域機構復帰をイスラエルと準備 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News

 こうしてみると、トランプ大統領のシリアからの撤退も、イスラエルと示し合わせて行われていた可能性が濃厚になります。このやり取りを知らなければ、アメリカは同盟者であるクルド人を売ったということになりますが、新たにトルコ包囲網が構築されており、その枠組みで中東諸国がクルド人を支援するとなれば話は変わります。イスラエルが慌てたのは、トランプ大統領がいきなりツイッターでシリア撤退を公表したからでしょう。話が急すぎたのです。

 こうしてみると、マティス元国防長官も肝心の政策決定から見事に外されていたこともわかります。やはり、トランプ政権を考察するうえでは、イスラエルとの関係が重要になるといえます。

 トルコという点で見れば、ロシア・トルコ・ベネズエラという枢軸が思い浮かびます。ベネズエラのマドゥーロ政権への支援を公表しているのは、トルコのエルドアン大統領です。また、ベネズエラにはロシアが軍事基地を新たに設ける話も出ています。

 とするならば、今回のシリア問題では、シリア国内の状況は平静を取り戻すとしても、アメリカとロシアの角逐は激しくなることになるでしょう。ロシアはさらにアメリカに対する反発を強めることになるはずです。