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可哀想なメイ首相とポンドのさらなる下落

 

英国王室のアフタヌーンティー

 Brexitを巡って英国の政界は混迷を極めています。少なくとも外見の上では、意図的なものは感じないのですが・・・。

 メイ首相はオックスフォード大学卒業後はイングランド銀行など金融業界で活躍しています。1997年には3度目の挑戦で下院議員に初当選し、国政へ進出。有能かつ、タフで鋭いと定評のあるメイ氏は保守党内で頭角を表し、野党時代には党の要職や「影の内閣」で閣僚を歴任した。こうした実績から、党内でも首相候補と言われてきました。
 この経歴からすれば、金融畑の政治家であるという言い方ができるでしょう。
 メイ首相のキャリアのもう一つの特徴はキャメロン内閣で内相を務めていることです。
 移民やテロ対策を6年間担った経験から、移民に対する厳しい姿勢で知られています。違法移民に「帰国せよ。さもなくば逮捕だ」と自主帰国を促す宣伝車両を全国に走らせたこともあるほどです。つまり、もう一つの軸が反移民であるわけです。メルケル首相の下でEUが大々的にシリア難民を移民としてEU全体に導き入れたことが、元来はEU残留派であったメイ首相を離脱派に転向させた最大の要因であったといえるでしょう。
 金融畑であれば、金融の中心地としてのロンドン・シティーの勢力が衰える過激なハード・ブレクジットがとれないことは自明でしょう。その一方で、反移民という立場からは、EU諸国との自由な人の流れを遮断することも政策の大きな柱になっているといえそうです。
 通常であれば、メイ首相の穏健なEU離脱案で、話は終わるはずなのですが、そうは問屋が卸さないということです。円満に離婚するには、あまりに当事者が多く、単なる離婚すらままならないというのが現状なのです。英国内を見ても労働党のコービン投手は、残留派でしょう。その一方で、ボリス・ジョンソン外務大臣はハード・ブレクジットの旗手です。英国内だけでも意見が分かれています。
 EU側も温和な条件で離脱されれば、他にもEU諸国離脱希望国が生まれる可能性があります。そのために、英国には必要以上に厳しい条件を求める傾向があります。これでは、まとまるものもまとまりません。
 ハード・ブレクジットの場合、医療品の輸入などで現在から懸念が表明されています。しかし、込み入った大陸とのしがらみを断ち切るには、ハード・ブレクジットの方が有利であるという見方もできます。
 率直に言って、メイ首相の政治的力量は限定的なものです。ですから、非力な女性宰相に困難な課題を押しつけることで、むしろ、英国は積極的にハード・ブレクジットもやむなしという英国の国論を対外的に宣伝しているようにも見えるのです。非力な宰相の元で交渉がもつれればもつれるほど、EUと英国内の当事者で失望が広がります。しかし、離脱したからと言って英国がEU諸国から地理的に隔たるわけではありません。一旦ハード・ブレクジットを演出し、そこでEU諸国から譲歩をもぎ取ろうというのが英国の国策であると推測できます。だとするならば、ポンドは来年の三月末までまだまだ下がるともいえるでしょう。
 しかし、金融が何よりも大事な英国にとって、金融覇権が失われることは絶対に避けたい事柄であるはずです。EUと新たな関係を結ぶためのブラフとしてのハード・ブレクジットであり、また、英国のヨーロッパからの離脱もその射程に入っているはずです。TPP参加希望表明と、日本の自衛隊との共同訓練の急速な増加は、英国がアジアに復帰しつつあることの証拠といえるでしょう。
 現在、与党のリースモグ議員によって不信任案が協議されています。英国の場合、一度不信任案が否決されれば、1年は、再び不信任案を提出することができません。世論調査の動向を見ても、今回の不信任案が可決されるようには見えません。ですから、現在の中途半端な状況がしばらく続くことになります。
 一旦、ハード・ブレクジットが実現すれば、そこから英国は反撃に移るといえます。来年の3月以降は、ポンドは急速に上昇することでしょう。

 そう考えれば、メイ首相はあくまでピンチヒッターで、重い荷物を背負っているようにも見えます。ですから、英国の本当の意図を隠すために、非力な首相を演じざる得ないメイ首相は、可哀想だなあと思うのです。