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習近平の権威の低下は、もはや事実

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 すぐに失脚することはないにせよ、習近平の政治的資産はすっかり減価してしまいました。それにしても、謎なのは今夏の米中対立の本質が多くの人に理解されていないということです。

 

 拓殖大学教授の富坂聰氏によれば、「ZTEの問題で中国の弱点を握った米国。ただ、これをもってかつてソ連を崩壊に導いたシナリオを引く声も聞こえ始めているが、それは気が早すぎるといわざるをえない。
 そもそも中国という発展エンジンは米国の経済発展のためにも不可欠な存在だからだ。
 中国の現在の世界経済成長への寄与は約30%だ。
 貿易関係のなかったソ連とは比較にならない。
 要するに米中経済戦争の行方は、米国がどう中国から利益を貢がせる構造を作り上げるかにこれから焦点が移動するはずだ」なのだそうです。

【真・人民日報】米中貿易摩擦、ほんの小手試し? “本丸”は最先端技術をめぐる攻防か (2/2ページ) - zakzak

 冨坂氏が述べるように、アメリカの強硬な対中姿勢が中国から利益を引き出す方便にすぎないのならば、どこかで手打ちをしようとするでしょう。しかし、そのような気配はZTEの件を除けばほとんど見られないのです。

 むしろ、アメリカ経済にとって、中国経済の成長は有害であり、今のうちに中国の台頭を抑止したいというのが、トランプ大統領の本音であるように見えます。そして、習近平の弱体化はブルームバーグも伝えるようになりました。

 「数カ月前、中国の現職最高指導者としての習近平氏の勢いを止めることはできないように見えた。国家主席の任期制限を撤廃し、数十年ぶりとなる政府組織の抜本改革を発表。昨年11月のトランプ米大統領訪中を成功させ、米国との貿易戦争を阻止できるように思われた。共産党総書記でもある習氏への党からの礼賛も相次いだ。
 だが、こうした圧倒的に強いリーダーとしての存在感が裏目に出るかもしれない。景気減速や株式相場の急落、粗悪ワクチンを巡る不祥事などは全て国民の不満を招く。欧米や世界の金融センター各地では、中国の野心に対する警戒感が広がりつつある。一段とエスカレートしつつある米国との貿易戦争は、中国が当初想定していた展開とは異なり、習氏の失敗を映し出すプリズムとなっている
 中国人民大学の王義桅教授(国際関係)は「貿易戦争が中国の腰を低くさせている。われわれは謙虚ならなければならない」と話し、習氏肝いりの現代版シルクロード構想「一帯一路」の下での大規模なインフラ整備事業をどのように進めていくかについてさえも再考すべきだとの考えを示唆した。
 米国との貿易交渉を始めた5月、中国は自信を隠さなかった。習氏は経済政策で最も頼りにしている劉鶴副首相を「個人特使」として米国に公式派遣。劉副首相は帰国後、勝利を宣言した。中国全土に放送されたテレビインタビューで、貿易戦争はないと断言。そしてショックに襲われた。
 助言や事業構築支援を提供する米クランプトン・グループで中国の政治を分析しているジュード・ブランシェット氏は「中国の振る舞いが搾取的で、制止する必要があるとの広範なコンセンサスがあった」と指摘。
 貿易交渉において関税は好ましい武器でないとする欧州連合(EU)の当局者も、トランプ大統領が展開する対中批判の本質については同意している。EUの行政執行機関、欧州委員会のユンケル委員長は7月の訪中時、李克強首相も出席し北京で開かれたビジネスリーダーとの会議で「EUはオープンだが、ナイーブではない」と述べた。

  国内での批判も強まっている。清華大学法学院の許章潤教授は中国のシンクタンク、天則経済研究所のウェブサイトに掲載された7月24日の論文で、「官僚エリートを含め国民が国の方向性に不確かな気持ちを強め、深い不安感を感じている」と記し、「不安の高まりが国全体にパニックのように広がっている」と指摘した。

  習氏が進めた反腐敗運動では150万人を超える公務員や党員が摘発されたが、今のところ党内で習氏に組織立って反対する明確な兆しは見られない。コンサルティング会社チャイナ・ポリシーの北京在勤マネジングエディター、デービッド・コーエン氏は「習氏のポジションについて分析し直すのは時期尚早」だとしているものの、この1カ月ほどは習氏の終わりの始まりのような感覚がある

  「突然オープンに話され、批判され始めた。以前の習政権下と比べる非常に劇的だ。抵抗する余地が大きくなったと一般国民は考えている」とコーエン氏は語った。」

内患外憂の習近平氏に吹き始めた逆風-中国国民に不安広がる - Bloomberg

 これまで習近平は、腐敗撲滅という名目で自己の権力強化のためにひたすら政治闘争に邁進していました。それが、一帯一路や南シナ海の埋め立て島の軍事化により、アメリカを中心とする自由主義諸国を警戒させることになりました。

 特にアメリカにとっては、このまま中国の台頭を許せば、中国がアメリカに対していずれ牙をむくことは明らかでした。既にオバマ政権の時から、対中強硬策は構想されていたはずです。その一環がTPPでした。オバマ大統領は、ノーベル賞を受賞したこともあり、大戦争には反対であったと見られます。それを後の大統領に「つけ」として後回しにしたのです。

 EUも対中政策に同意していることから、世界の敵は中国というコンセンサスができあがりつつあります。ここで重要なのは、ロシアがどのように関与するかという問題です。トランプ大統領がロシアとの関係強化に熱心なのは、米中戦争でロシアをアメリカ側に引きつけておきたいという下心があるためです。

 そこまで考えれば、今後の米中対立が平和裏に終わる可能性は極めて低いと言えます。恐らくトランプ大統領は、「中国に貢がせる」という発想はほとんどないはずです。日本も対中戦に向けて準備を始める必要があるでしょう。