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拙速のトランプに、金正恩の高笑い

攻殻機動隊 S.A.C. 笑い男 ステッカー

 韓国政府は6日、訪朝した韓国特使団(団長・鄭義溶大統領府国家安保室長)と北朝鮮金正恩朝鮮労働党委員長との間で合意した内容を発表しました。

 北朝鮮の軍事的脅威が解消され、北の体制の安全が保障される場合、核を保有する理由がない」とはいうものの、これまでの経緯を考えればこの発言ですら到底信用できるものではありません。

  まずはいくつか問題があると思います。

 一つ目は交渉はいつ行われていたのかということ。

 娘のイヴァンカがオリンピックの閉会式に出席した際に、何らかの交渉が行われていたということでしょう。ペンス副大統領が開会式に出席しましたが、これは金与正(ヨジョン)と接点を持つ予定だったはずです。ただ、ペンス副大統領の強硬な姿勢に恐れをなしてこの時は意思疎通はなりませんでした。

 その後の閉会式で、北朝鮮は、朝鮮労働党中央委員会の金英哲(キム・ヨンチョル)副委員長らを派遣しました。金英哲は、人民軍偵察総局の総局長を務め、2010年に韓国海哨戒艦「天安」号が沈没し46人の死者を出した事件にかかわったとみられているいわば実力行使も厭わない実務派です。おそらくは金英哲とイバンカの側近の担当者が、米朝首脳会談の地ならしをしたと考えられます。ジョセフ・ユンはこのラインからはずされていたので、ひねくれて辞職したのでしょう。

 二つ目は、トランプ大統領がなぜ首脳会談を受け入れたのかということです。

 最近のトランプ政権は、ホープ・ヒックス広報担当官の辞任、ゲイリー・コーン国家経済会議議長の辞任、娘婿のジャレッド・クシュナーの最高位クリアランスの剥奪とまるでよいところがありません。さらには銃規制に消極的であると、世論から強い批判を浴びています。実際には、アメリカ議会の問題なのですが、不利な事件が立て続けに発生していました。政権浮揚のために、鉄鋼・アルミの関税化も宣言しましたが、またしても,内外から強い批判を浴びています。

 今年の中間選挙を乗り切るために、実績が必要でした。それが、今回の米朝首脳対談に合意した最大の背景でしょう。

 三つ目は、北朝鮮の狙いです。

 これはこれまで繰り返しお伝えしてきましたが、本音のところではアメリカとの国交回復と、それによる本格的な外資の導入北朝鮮の最大の目標になっています。その観点からすれば、今回の首脳合意を取り付けただけでも、金正恩にとって大金星であったと言うことができるでしょう。

 核実験やミサイル実験の停止にしても、海外との貿易が急速に縮小しつつある現在では、最初から無理な話です。とするならば、トランプ大統領が功を焦ったというのが本当のところでしょう。

 ただ、首脳会談を行う相手を暗殺するとは考えにくいので,しばらくの間は金正恩も枕を高くして寝ることができるとみられます。

 四つ目は、今回の米朝合意が周辺諸国に与える影響です。

 まず、日本に取っては核問題も重要ですが、拉致された被害者を帰国させることも非常に重要です。一番良いケースは、北朝鮮の体制が崩壊して、帰国できるという場合ですが、今回の米朝合意でそれはなしになりました。後は、トランプ大統領北朝鮮側にどこまで交渉できるかにかかっているでしょう。

 それでもまだ日本はマシな方です。一番焦っているのは、中国です。このところの中朝関係の悪化で、北朝鮮の体制とはほとんどパイプが切れた状態です。北朝鮮がアメリカに取り込まれてしまえば、例えば、国交回復により、米国大使館が平壌にできれば、アメリカの影響圏と直接国境を接することになります。今後アメリカとの軍事対決を考慮している中国にとっては避けたいシナリオだったはずです。

 それでは,最後に朝鮮半島の行方について考察してみましょう。

 まず、トランプ大統領は、本音のところでは朝鮮半島などどうでも良いと考えているでしょう。ですから、朝鮮半島からは核が取り除かれ、日本の拉致家族が帰国すれば、それでもう十分で、アメリカが韓国を防衛する意思を維持することはないでしょう。

 韓国と北朝鮮による統一朝鮮への動きの背後で、アメリカ、特に米軍の撤退がスケジュールに入ると思われます。ですから、対馬海峡が日本に取っての絶対防衛権になります。

 韓国はといえば、経済的な不調が来れば、政府を維持できるかどうか怪しいところです。皮肉なことですが、韓国が北朝鮮に依存するという事態も予想出来ます。

 冷静に振り返ってみれば、実の兄を暗殺する政治指導者とアメリカ大統領が会談を行うことは、いかにもまずいという印象があります。会談が実際に行われるかどうかは現段階では予想出来ません。

 それ以前に、IAEAの核査察を北朝鮮が受け入れるかどうかが、今後の焦点になります。査察を受け入れ、核施設も完全に放棄すれば、少しは北朝鮮の言い分を聞いても良いのかもしれません。しかし、この手で我々は何度も騙されてきたのですから、現段階では北の核放棄は言葉だけのものに留まると考えざるを得ないでしょう。

 幸い、制裁は現状が維持されます。その上で、北朝鮮が無制限の核査察を受け入れるかどうか、が今後の焦点になります。