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継続する米ロ対立とプーチンの蹉跌

 冷戦の敗北から立ち上がったロシアが、プーチンの下で現在の国際的地位を築き上げたことは違いありません。オバマ政権時代には、ウクライナへの介入に苦慮し、一気にクリミア・東ウクライナ併合へと動いたことはよく知られています。その際の非正規戦争の手法、SNSを用いた世論工作などが逆にアメリカ・ヨーロッパ諸国を警戒させ、ロシアにとっては実に厳しい経済制裁を被ったことも事実です。今のところ、天下無双に見えるプーチンの弱点を考えてみます。

 ブルームバーグからです。
 「プーチン大統領は、歴代のアメリカ大統領を出し抜き、世界におけるロシアの地位を劇的に強化したという考え方は、この数年、ありきたりな見解になっています。
 多くの西側のアナリストや政策立案者が信じているのは、プーチンは弱体な国力を巧みに利用し、策略家から第一級の戦略家に進歩し、クリミアや東ウクライナを確保し、シリアのバシャール政権を支えるといった一連のロシア外交の勝利をもたらしたということです。
 こうした姿勢は、ロシア国内でも深く根付いています。実際、ロシア国内でもほぼ90%が、ロシアの外交運営を評価しているほどです。
 しかし、この認識は正確なのでしょうか。こうした見解は、プーチンの対外的な関与の長期のコストにはほとんど注意が払われていないためです。
 第一に、確かに、2015年9月のロシアの軍事介入は、アサド政権を支えるのに貢献し、シリア西部でのシリア政府支配地域に対する攻撃を防ぎ、ロシア軍の拠点を維持しました。このことによって、シリアの将来をめぐる今後の交渉において、ロシアは、重要なプレイヤーになることが保証されたのです。
 しかし、アサド政権は戦闘を有利に進めていますが、その一方で、アサド政権を支持しない何万もの敵対的で重武装した戦士たちが存在しているのです。それに加えて、数千名のイスラム国やアルカイダの傘下にある過激派も存在し、最近の戦場での敗北にもかかわらず、シリアで今後も活動を続けるとみられています。つまり、ロシア軍は、今後もシリアでの戦闘のためにとどまらなければならないということです。そこには、相当の費用とより多くの死傷者が加わるのです。
 それと同時に、ロシアの昨年(2016年)のアレッポ周辺への無差別爆撃は、過激派勢力の中でのロシアの悪名を高めることになりました。その結果、今後もロシアはテロリストのターゲットとして狙われ続けることになります。それに加えて、当時の国家安全保障会議者の参加者の話によると、ロシア軍の活動による民間人の被害が、シリアにおける米ロの対テロ協力関係を妨げる大きな障害となっています。
 さらに、アサド政権が存続する限り、国際社会はシリアに再建費用を提供しないでしょう。その結果、ロシアが再建費用の一定割合を負担しなければならなくなるでしょう。それこそが、アサドにとっての、あるいはその後継者にとっての政治的脆弱性となっています。
 最後に、シリアにおけるイランとの協力もこの地域のスンニ派諸国を警戒させ、ロシアとイスラエルの関係も緊張させています。最近のシリアにおけるイスラエルの軍事行動は、国境沿いのイランの勢力への恐怖を反映しています。そしてイスラエルとイランの支援を受けた勢力の間での軍事衝突の危険が高まっているのです。こうした状況のためにロシア軍はとりわけ不安定な立場に置かれています。なぜなら、ロシア軍は戦場においてはイランの代理勢力と関係が深いためです。結局のところ、地上におけるイランの勢力の大きさを考慮するならば、クレムリンではなくテヘランが、シリアの将来を形作る際に最も大きな役割を果たすことになることをロシアの軍事介入が保証したといえます。
 その一方で、クリミアやウクライナでは、プーチンは、2014年のウクライナ革命からヴィクトル・ヤウヌコビッチ大統領の失脚、クリミア併合とウクライナの西側諸国との統合の阻止に至るまで一気に動きました。非対称戦争の採用と、ロシアに指示を受けた分離派への軍事ハードウエアの提供を通じて、プーチンは、長らくウクライナの産業が集結したドンバス地域に対するロシアの影響力を確保しました。
 しかし、どれほどの対価が必要だったのでしょうか。プーチンは一世代分のウクライナ人を反ロに転向させてしまいました。最近の世論調査では、2010年まで95%のウクライナ国民がロシアを肯定的に捉えていました。今ではその数値は40%程度にまで下落しています。西部ウクライナでは、その数値がさらに下落することは疑いありません。ロシアのウクライナへの介入は、アメリカやEU諸国の経済制裁につながりました。その結果、原油生産が下落し、ロシアの経済成長は阻害され、ルーブルの下落を導いたのです。2017年は、ロシアは年率1.5%程度の緩やかな成長を遂げる見込みですが、近年のロシアの経済の停滞を埋め合わせることはできないでしょう。
 プーチンウクライナでの軍事作戦は、ロシアのヨーロッパにおける意図に関してアメリカやNATO諸国に懸念を新たに抱かせることになりました。その結果、NATO加盟国の軍事費の増大、米軍の戦闘車両の再配備、英軍、カナダ軍、それにドイツ軍の戦闘部隊のラトビアリトアニアエストニアへの配備といった措置が取られています。多くの点で、 プーチンウクライナでの軍事作戦は、プーチンが常に恐れるNATOを生み出しているのです。
 同様に、しばしば報道されているプーチンのアメリカ、ヨーロッパにおける世論工作、選挙介入は、混乱を生み出すのに成功しました。しかし、それと同時に、ロシアは信用を失い、対イスラム国作戦であってもモスクワとの協調が不可能になっているほどです。
 ドイツでは、9月の総選挙への介入への懸念が大きかったために、ドイツの公安活動を担当する憲法擁護庁が、ロシアのサイバー工作による選挙干渉を公に批判したほどです。ドイツとそのほかのヨーロッパ諸国は、サイバー防衛を強化し、重要なインフラを守り、攻撃された場合の対応能力を向上させています。これらの新たな計画や能力はロシアに向けられているということは明らかです。
 その一方で、オランダ、フランスでの中道政党の躍進は、メルケル首相の再選、ロシアに友好的な独社会民主党の凋落とも相まって、ヨーロッパとロシアの関係改善や制裁の解除にはつながりそうもありません。」

Putin Is Losing the Long Game on Foreign Policy - Bloomberg

 この評論では、ロシアが批判的に描かれていますが、例えばロシアとイランの関係が正確に把握されているとは言えないでしょう。むしろ、アメリカの中東政策との違いでいえば、信頼できるパートナー国を確保したうえで、中東ににらみを利かせるというプーチンのアプローチの方が、気に食わなければとりあえずぶっ潰す「イラク戦」(ブッシュ・ジュニア)とか、裏工作は行っても後はサウジアラビアカタールに全面的に肩代わりさせていた「アラブの春」に比べれば、成功していることは否定できません。
 むしろ、ロシアは、イランのような癖のある国家を上手に利用して、中東問題の混乱に対処しています。その成果は、原油価格の安定化でした。冷戦終了以降、中東はアメリカの独壇場でした。その中東に現在では確固たるプレゼンスを確保しているのです。
 極東においては、おそらく北朝鮮を前衛の拠点として利用する意図があるのでしょう。プーチン金正恩を利用するのはそのためです。このように見れば、ロシアとアメリカは、北朝鮮やイランのようなならず者国家を介して対峙しているという見方も成立します。つまり、冷戦が再び始まっているのです。ただ、今回の冷戦は、資本主義VS共産主義といったイデオロギーによるものではありません。したがって、外交的な枠組みの変更によってこの対立が解消される可能性もあります。
 ただ、クリミア・東ウクライナ侵略という事実は残ります。そして、ここに挙げられているような西側諸国への選挙干渉がロシアの信用を決定的に失墜させています。したがって、米ロの第二次冷戦はしばらくの間継続すると考えねばならないでしょう。