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FRBパウエル新議長に求められた資質

  ワシントンの情報からでは、今回のFRB議長の人選に関しては、当初トランプ大統領がイエレン議長の続投を考慮していたのに対し、ムニューシン財務長官が横やりを入れたという話が伝わっています。単にエコノミストとして優れているだけでは通用しないのがFRB議長の座なのでしょう。

 ブルームバーグからです

米連邦準備制度理事会FRB)のパウエル理事は、イエレン氏の後任となる次期議長に指名されるまで数年かけて、ビジネスの世界で学んだ教訓を世界一強力な中央銀行に持ち込んだ。つまり主導権を握らなければ、奪われるという経験則だ。
 支払い決済制度から金融政策に至るあらゆる事柄について、FRBの頭の切れるエコノミストのスタッフらは、自分たちで違いを徹底的に議論した後、理事らがおおむね助言に従うことを期待し、統一的な政策提言を示そうとすることにパウエル氏は気付いた。
 プライベートエクイティ(PE、未公開株)投資の世界で法律専門家の経験を積んだパウエル氏にとって、それは納得し難いやり方だ。そうした業種でディールの提案が生き残るには、トップの意思決定者の前でウの目タカの目の厳しい審査を切り抜けなければならない。潜在的な投資への反論に徹する役割をメンバーに割り当てる会社もあるほどだ。
 このためFRB理事となったパウエル氏は押し返した。同氏に仕えた元FRB当局者の1人によれば、時として自分の目の前で政策理念について議論することを同氏はスタッフに求め、さらに山ほどの学術研究を熟読し、そして質問した。「既製」の政策提言に異議を唱えたにもかかわらず、FRBでの5年余りの在勤期間で、同氏はスタッフの尊敬を得ることに成功した。

グループシンクのわな
  パウエル氏が来年2月にFRB議長に就任する際にそれが物を言うことになりそうだ。博士号を持つエコノミスト300人余りを擁するFRBで、経済学博士号を持たない議長が誕生するのは、1979-87年に在任したポール・ボルカー氏以来となり、新議長がFRBのスタッフに取り込まれるという外部の懸念も既に存在する。
  FRBで17年勤務した経験を持つハーバード大学のカレン・ディナン教授は「スタッフが自分たちの分析が正しいと考える理由の正当性をFRB議長が疑うことは実に重要だ。広く支持され、あまりにも速やかに受け入れられる見解と分析が一致する場合こそ危険だ」と指摘した。

イエレンの忍耐
 現在のFRB議長のジャネット・イエレンは、経済が回復するに従って、労働市場から引き下がっていた労働者が労働市場に戻るという視点にしがみつくとき、リーダーシップを発揮した。スタッフは懐疑的だった。彼らの考え方に従うならば、もっと早く金利が上がっても良かったからだ。結局、イエレンの見解は正しかったように見える。イエレンは細心の注意を持って金利を引き上げた。インフレを発生させることなく何十万もの労働者を労働市場に復帰させたのである。
 パウエル新議長が、同様なことを行う際に知識や自信をもてるかに関しては若干の疑問がある。
 「パウエルにはイエレンほどの頼れるだけの知識の深さがない」とアライアンス・バーンスタイン社の上級エコノミストエリック・ウィノグラッド氏は述べる。「それはしばらくの間は問題にならないだろう。平静な状態が続き、政策が確立している間はね。しかし、サイクルが終わって、FOMCが政策変更を迫られたときはどうなるのだろうか」
 博士号を持たず、自分の主張を持ち、経済論争に積極的に参加した理事もいる。それがダニエル・タルーロである。彼は弁護士で銀行規制当局者であったが、この4月にFRBを去った。
 2011年4月に、連邦公開市場委員会が開催されたが、その頃は、株式市場が下落し、ヨーロッパとアメリカの経済には悲観論が蔓延していた。

タルーロの投入
 当時のFRB議長であったベン・バーナンキは、FOMCの参加者すべてが見解を共有する場で、タルーロを投入することで「経済論争(economic go-round)」を開始した。FOMCはたいていの場合マクロ経済の傾向と観察を読み上げる上品な場である。タルーロはその伝統を破壊し、部屋に集まった一同を驚かせ、その後の議論を仕切ったのだ。
 「論争は終わった」とタルーロは語った。「着実だが地味な成長を論じる側は敗北した」
 パウエルは押し出しは強くない、むしろ上品なほど(collegial, even genteel)であることが知られている。彼はタルーロのようなブルドッグにはなりそうもない。しかし、彼は他のFRBの同僚の意見に必ずしも同調しないことを示している。
 パウエルは、「金融政策に関しては多くの見解が存在することを承知している。また誰かが政策を決定的なものだとして提示する場合、それが悪いアドバイスだということも知っている」とドン・ファウストは述べている。ドン・ファウストは2012年から2014年までFOMCの経済顧問を務め、現在はジョン・ホプキンス大学にエコノミストとして勤務している。「彼は正しい質問を投げかけるのが上手なんだ。私も質問されたがね」」

Fed Chair Nominee Powell Is No Ph.D., But No Pushover Either - Bloomberg

 非常に興味深い話ですね。FRBの議長はいざとなれば、自己の視点に固執する必要があり、それで結果を出さねばならないと言うことですから。「自分の目の前で政策理念について議論することを同氏はスタッフに求め、さらに山ほどの学術研究を熟読し、そして質問」することが重要なのでしょう。

 ただ、それはそうだとしても、イエレン議長を更迭する必要があったのかというと疑問に思えます。何かウォール街の圧力が働いたと言うことなのでしょうか。