FirstHedge 明日の投資情報

投資を搦め手で分析します。

カタール危機再考(1)

 トランプ大統領が化けるとは思わなかった今年の6月に書いた文書を公開します。恐らくまだ知らない方が多いのではないでしょうか。陰謀論ではないが、やはりグレンコアの話が出てくるのが今読んでも驚きです。

1.そもそものきっかけ
2.問題となったトランプ発言
3.サウジアラビアカタール
4.米軍の反応
5.CIAの奇妙な発表
6.カタール断交と今後の見通し

 1.そもそものきっかけ
 話は2015年にさかのぼる。イラク南部で鷹狩りをしていた首長家メンバーを含む多数のカタール人が何ものかに誘拐される事件が起き、イラクでも大きく報じられた。この事件が解決したのが今年の4月であるが、フィナンシャルタイムズ(FT)によれば、10億ドルの身代金を支払ったというのである。その相手がイランであり、アルカイダの関連組織であったというのである。
 10億ドルのうち7億ドルがイラン人とイラクシーア派民兵に支払われ、2億ドルから3億ドルがアルカイダに関連があるシリアのイスラム原理主義団体(Tahrir al-Sham)にわたったとのことだ。その結果、26名のカタール人と50名の民兵が解放された。
 イラクシーア派民兵の指導者によれば、イランは4億ドルを手に入れたとされる。シーア派民兵組織も支払いの分け前には不満があるようだ。
 「イランが身代金のほとんどを横取りしたんだ。そのために我々の組織の内部にも不満を感じているものがいる。これは取引ではないからだ」とその指導者は語っている。
 実際のところ、オバマ政権もイランに捉えられていた米国人を釈放させるために、17億ドルを現金で支払っている。今回の事件が問題になること自体がおかしいのである。
 FTの報道によると、今回の身代金支払いが断交の原因であったとされる。しかし、この断交には割り切れないものがつきまとうのである。

2.問題となったトランプ発言
 様々な外交・安全保障筋の話を総合すると、5月末のアメリカも参加したリヤドでの湾岸諸国の会議が、カタールの運命を決定したとのことだ。5月21日のこの会議の場で、トランプ大統領は、カタールをヌスラ戦線の後身組織であるファター・アル・シャムに資金を提供していると非難した。これは先に述べた身代金であると考えられる。さらには、カタールが支援しているムスリム同胞団もアメリカがテロ組織として指定すると発表した。
 サウジアラビアと米国はカタールのイランとの良好な関係に苛立っていた。カタールはイランとは良好な関係を継続せざるをえない。なぜなら、ノースドーム・サウスパースガス田をこの両国は共有しているためだ。しかも、カタールの産出量の方が多いのである。この数日前に、サウジアラビアバグダッドで開催されていたカタールとイランの秘密会談にも注意を払っていた。この会談に臨席していたのは、モハンマド・ビン・アブドゥルラーマン・アル・ターニーカタール外相と、イラン革命防衛隊の精鋭部隊であるクッズ軍司令官カセム・スレイマーニであった。
 カタールは、5月の首脳会談の後、外相のモハンマド・ビン・アブドゥルラーマン・アル・ターニー、広報担当のサイフ・アフメド・アル・ターニー、パレスチナ問題顧問のアズミ・ビシャラ等ともに対応を協議している。

3.サウジアラビアカタール
 しかし、カタールだけがイスラム過激派の支援国家ではない。アルカイダイスラム国を育ててきたのは、実際上、サウジアラビアカタールの二カ国なのである。特にシリアの内戦においては、アルカイダ系の旧ヌスラ戦線などを支援してきたのは、公然たる事実といって良い。
 例えば、2014年8月17日にヒラリー・クリントンが、当時のオバマ大統領の首席補佐官であるジョン・ポデスタに送ったメールにおいて、サウジアラビアカタールイスラム国などのイスラム原理主義組織の主要な資金提供者であると認めているのだ。その上で、ヒラリーはイスラム国を打倒するために、空軍力、クルド人部隊などの同盟軍などと共に、アメリカの特殊作戦軍の使用を主張している。その上でサウジアラビアカタールの両政府に外交インテリジェンスを用いて、圧力を掛けるべきだと提唱している。さらに、クルド人部隊への支援を増強することも付け加えている。「カタールサウジアラビアは、スンニ派世界の盟主としての地位とアメリカからの圧力の間でバランスを取ることを迫られるだろう」とヒラリーは述べている。
 しかし、このメールの内容が暴露されたことは、サウジアラビアにとってもショックであったはずだ。今回イスラム国に資金援助を行っていた国々、サウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦バーレーンがこぞってカタールに強硬な姿勢を取るようになったのは、自らが、イスラム過激派に荷担していることをサウジアラビアが隠したかったためであった。昔の友人を裏切って、サウジアラビアは自国だけが助かろうとしているのである。原油安が続く中で、サウジアラムコの上場は何としてもやり遂げなければならない。いま、アメリカとの関係が悪化するのは、サウジアラビアとしては何としても回避しなければならないのである。結局のところ、今回のカタール断交は、アメリカ、特にトランプ大統領のご機嫌伺いだったのである。

4.米軍の反応
 当初、このカタール断交は、米軍にとっては困った方針であるように見えた。しかし、様々な情報を総合すると、カタール外しは想像以上に進行していた。驚くべきことに、カタールの米軍基地移転の議論が5月からワシントンで行われていたのだ。
 カタールのアルウデイド基地は、米軍の中東での中心となる拠点であり、長年カタールの事実上の生命保険として機能してきた。アルウデイド基地には、アメリカ中央軍の司令部が置かれており、アフガニスタンイラク、イエメンなどで展開する米軍の作戦は全てこの基地から指揮されている。
 しかし、今回のカタール断交をきっかけにしてペンタゴン内部でも、別の場所への基地移転の声が上がっている。ヒラリー・クリントンの特別補佐官を務めていたデニス・ロスは、しばしば、サウジアラビアのテレビ番組で、アメリカ中央軍のサウジアラビアへの移転を口にしている。また、5月末に民主主義防衛基金がワシントンで主催した会議の席上で、下院外交委員会議長のエド・ロイスと、アラブ首長国連邦に近いロバート・ゲイツ元国防長官は、共にこの地域での最大の米軍基地をカタールに置くことに疑問をさしはさんでいる。エド・ロイスは、パレスチナのテロ組織ハマスとテロ組織に関連したムスリム同胞団に金融的に支援を行う国家に対して制裁を準備していると付け加えた。この制裁の対象は言うまでもなくカタールである。

5.CIAの奇妙な発表
 今回の断交にいたるもう一つの原因として伝えられているのが、カタールのタミーム主張の親イラン発言である。カタール通信は先月23日、タミーム首長がイランなどを擁護する発言をしたと伝えていた。イランと対立するサウジなどアラブ諸国は、これをきっかけにカタールがテロを支援しているとの非難を一気に強め、断交を発表したというわけだ。
 この一件は5月23日からサウジアラビアの衛星通信ネットワークアルアラビーヤが、タミーム主張の問題発言を伝えた。カタール通信のサーバーはダウンし、カタールアルジャジーラは、カタール通信はサイバー攻撃を受けたと発表した。それにも関わらず、アルアラビーヤは、カタールへの攻撃を繰り返したのである。
 ここでCIAは、タミーム主張の問題発言にしても、カタール通信へのサイバー攻撃もロシアが関与したものだと主張し始めたのだ。これが事実だとすれば、カタールの冤罪は晴れることになる。しかし、ロシアが悪という結果が残る。
 問題の核心はロシアにあるのではないか。そうした視点から、カタールの動向を見直すと興味深い時日が浮かび上がるのである。

5.ロシアとの関わり
 実は4月末の段階で、CIAはスイスの本拠を持つグレンコア社とカタール投資庁がロシアの石油会社ロスネフチの株式を19.5%獲得していることを把握していた。この取引の仲介となったのがシンガポールに登録されているGHQシェアーズ社である。GHQシェアーズ社の親会社はロンドンに本拠を持つGHQホールディングス社であり、その株主はGHQケイマン社を除けば明らかになっていない。
 グレンコア社とカタール投資庁は、GHQホールディングス社の株式を保有しているが、ロスネフチの102億ユーロの株式に対して、グレンコア社は、3億ユーロ、カタール投資庁は25億ユーロを購入した。グレンコア社とカタール投資庁は、今回の購入に際して資金をイタリアのインテサ・サンパオロ銀行から52億ユーロを借り入れた。この件に関しては、CIAは調査を継続している。

6.カタール断交と今後の見通し
 カタールがガス田をイランと共有している以上、イランとは融和的な姿勢を維持せざるを得ない。そこが狙われたのが今回のカタール断交であった。第一義的には、今回のカタール断交は、対イラン包囲網の強化である。サウジアラビアも米国からの要求には逆らえない事情があり、サウジがカタールに対して軍事作戦を行う可能性が否定できない。
 それと同時に、今回の断交は、ロシアに対する牽制でもある。事態の流れを見る限りでは、クリントン人脈が、所々に顔を出すのが気にかかるところだ。絵を描いたのはCIA,トランプはうまく乗せられているのが実態ではないか。下手をするとペルシャ湾岸でスンニ派諸国の間で戦争となる。原油価格も一気に上昇するのではないか。