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比較的冷静であったトランプ大統領国連演説(追記あり)

 ブルームバーグに掲載された非常に良質なトランプ大統領の国連演説の分析です。冷静に見れば、従来の大統領と変わらないというのは、斬新な見方ですね。

 

 まず、翻訳を紹介しましょう。
 「国連総会におけるドナルド・トランプ大統領の発言は、国家主義挑発に偽装した慣習的な演説であった。
 選挙期間中、ドナルド・トランプは、アメリカファーストを体現する人物として振る舞っていた。このアメリカファーストこそ、民主共和両党のエリート達が成し遂げることができなかったとトランプは主張していた。彼の国連演説は、「America First」というフレーズを唱え、「ソブリン」または「主権」という言葉を21回使用した。その点では、選挙公約に合致しているように見えるかも知れない。
 しかし、これらのコンセプトに重点を置いていたとしても、政策上の大きな逸脱は生じなかった。トランプ氏は、アメリカは同盟国と協調して主権を行使すると述べた。彼は海外に人道援助を約束した。彼は国連自体に重要だが、改革されなければならず、他の国々はその維持のためにもっと払わなければならないと国連に語った。
 そして彼は、アメリカの利益や米国の価値観にもリスクをもたらす悪の政権に対して行動をとると脅かした。彼は価値観について明示的には言及しなかったが、ベネズエラに対する制裁措置を擁護し、抑圧的な体制であることを理由にベネズエラに対するさらなる行動を仄めかした。
 言葉遣いこそ珍しかったが、根底にあるメッセージは、代々の共和党大統領が提供していたものとほぼ同じであった。(ヒラリー・クリントンが選出されていれば、ほとんど同じ演説を行ったことだろう。)
 別の大統領であれば、核攻撃の脅威を受けて、「北朝鮮を完全に破壊するしかないだろう」といったぐあいに、北朝鮮に直裁に警告することはなかっただろう。別の大統領であれば、賢明にもより虚勢じみていない言葉で語ったことだろう。しかし、やられたらやり返すという報復の脅威は、常に核攻撃に対する主要な抑止力であり、冷戦時の明示的な政策であった。
 この件についてこれ以上強調するつもりはない。大統領が別人であれば、別の難民政策を採用し、資金を提供して別の場所に定住するように促進することもなかっただろう。国連で通商交渉を非難するのは、それはトランプだったからだ。
 しかし、この演説の中で、トンプルの主権への配慮に対して何を取引材料にしたのかはみておく必要がある。
 他の国の主権への尊重という姿勢は、世界中のアメリカの関与を継続的に支持していることと矛盾するように見えるかもしれない。トランプ氏の演説の重要な文章はこの問題を明らかにしている。「多様な国が同じ文化、伝統、政府制度を共有するとは考えていないが、すべての国が、自国の国民の権利と他のすべての国家の権利という2つの核となる主権の義務を守ることを期待する」
 ここでトランプが述べているのは、「世界中で起きていることは、アメリカ政府の仕事ではない。しかし、アメリカはそれらに介入しなければならない時がある」という決闘のような真実を正当化しようとしているのである。それ故トランプの解決とは、柔軟性のある主権の定義を受け入れることだ。外国政府に対して行動を起こしたくないときは、主権を尊重して介入を差し控えると言うことができる。行動を起こすことを望む場合は、政府は義務を果たすことができなかったために、主権を失ったと言うことが出来る。
 トランプ大統領は、本当の主権国家であれば、「神が意図した人生の豊かさの中で、全ての個人が繁栄することが可能になる」とすら説明して見せている。これは、ジョージ・W・ブッシュ大統領の2度目の就任演説に簡単に挿入できる内容であった。なぜなら、ブッシュ大統領は、その演説の中で、 世界中の民主主義と人権を広める政策を合理化していたためである。
 もう一つの重要な論点は、トランプ大統領が「権威主義的国家は、第二次大戦以来世界紛争を抑止し、世界の自由を目指してきた価値、システム、そして同盟を覆そうとしている」とのべていることだ。トランプ大統領の最も辛辣な批評家は、トランプ大統領もまたこれらの事柄を崩そうとしていると避難してきた。
 しかし、この演説の中では、トランプ大統領は、歴代の大統領と同様.世界の秩序を守ると宣誓したのだ。いずれにせよ、その使命は、アメリカの我々自身のビジネスとなったのだ。トランプ大統領の演説は知的な面では明快さを欠いたかも知れない。しかし、多くの外国首脳陣は、トランプ大統領の演説にほっとさせられたことだろう。」

www.bloomberg.com

 

 これを読む限り、世界に関与するアメリカというスタンスは変わらないということでしょう。それでも、気になる表現もあります。それは、「外国政府に対して行動を起こしたくないときは、主権を尊重して介入を差し控えると言うことができる。行動を起こすことを望む場合は、政府は義務を果たすことができなかったために、主権を失ったと言うことが出来る」という部分で、柔軟な主権概念を援用することで、アメリカは自由に介入の是非を決定できるということです。裏を返せば、アメリカとの関係の善し悪しによって、自国の存続も決定される国もあるということです。それこそ、まさに日本の現状ではないでしょうか。
 ただ、今回の演説は、世界中の正義を独り占めするような内容でしたから、自国をアメリカのライバルと思っている国は、心穏やかではなかったでしょう。

 

さて、ロイターにも今回の国連演説がホワイトハウスの安全保障スタッフが総掛かりで作成したと記されています。

「その一方で、いがみ合いがちなトランプ大統領の顧問たちのあいだに意見の相違は見られないと、ある政権当局者は明かした。
国家安全保障会議の高官らが最も協力して作成した大統領の演説原稿だった」とこの当局者は語った。
同当局者によると、大統領が演説後、ティラーソン国務長官は起立して、主なスピーチライターであるスティーブン・ミラー大統領補佐官(政策担当)に握手を求め、「よくやった」と伝えたという。ミラー氏はバノン氏の同調者で、ナショナリストと見られている。それに比べると、ティラーソン氏はグローバルな考えの持ち主である。」

 ロイター自身は、トランプの独自性を評価する書き方になっていますが、やはりここはブルームバーグの判断の方が正しいように思えます。

アングル:「米国第一主義」衰えず、トランプ氏国連演説で露呈 | ロイター